研究実績の概要 |
本研究は、タンパク質結合パースルフィドもしくはポリスルフィド(P-SSH/-SSnH)への親電子修飾は可逆的であるか示し、毒性学および予防医学において超硫黄分子の重要性を提示することを目的としている。環境中親電子物質として主に、1,4-ベンゾキノン (1,4-BQ)、1,2-ナフトキノン (1,2-NQ)、(E)-2-アルケナール類もしくはアクリルアミドに着目し、親電子物質の標的タンパク質として酸化ストレスのセンサータンパク質として知られるプロテインチロシン脱リン酸化酵素 (PTP) 1Bを用いること計画している。PTP1Bの活性部位の反応性システイン残基は容易に酸化もしくは親電子修飾されて活性を失い、応答分子である上皮成長因子受容体 (EGFR) が活性化する。これまで、精製PTP1Bを用いて、二硫化ナトリウム(Na2S2)存在下でパースルフィド化したPTP1Bに1,4-BQもしくは1,2-NQを反応させてPTP1B活性を阻害しても、ジチオスレイトールにより還元されて、当該活性が回復する結果を得た。そこでR4年度は、細胞内においても、PTP1B結合パースルフィドは親電子修飾に対して可逆性を担保するか否か検討した。A431細胞を1,2-NQに曝露するとEGFRの活性化が認められ、その活性化は時間依存的に二峰性を示した。EGFの曝露によるEGFRのリン酸化は二峰性を示さなかった。この結果から、1,2-NQがPTP1B結合パースルフィドへの修飾を介してEGFRを活性化し、何らかの還元を受けてモノスルフィドに再生しEGFRを抑制したと示唆された。また、PTP1Bのシステイン残基は反応性が高く容易に酸化されることから、再生したシステイン残基が再び化学修飾を受けて二峰性を示したと推測された。
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今後の研究の推進方策 |
パースルフィドおよびポリスルフィドの産生にはシスタチオニンγ-リアーゼ、シスタチオニンβ-シンターゼおよびシステイニルtRNA合成酵素などが関与する。環境中親電子物質に対する細胞内のPTP1B結合パースルフィドの役割を解明するために、これらの酵素をsiRNAでノックダウンし、内在性のパースルフィドおよびポリスルフィドが1,2-NQ依存的なEGFRリン酸化の継時変化にどのような影響を与えるか検討する。また、抗PTP1B抗体および抗1,2-NQ抗体を用いた免疫沈降法でPTP1Bのモノスルフィドおよびパースルフィドへの1,2-NQ修飾の可逆性を評価する。
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