研究実績の概要 |
本研究では、タンパク質結合パースルフィドもしくはポリスルフィド(P-SSH/-SSnH)への親電子修飾は可逆的であるか否かを検討することを目的とした。環境中親電子物質に着目し、酸化ストレスのセンサータンパク質として知られるプロテインチロシン脱リン酸化酵素 (PTP) 1Bを親電子物質の標的タンパク質として用いた。PTP1Bの活性部位の反応性システイン残基は容易に酸化もしくは親電子修飾されて活性を失い、応答分子である上皮成長因子受容体 (EGFR) が活性化する。これまで、精製PTP1Bを用いて、二硫化ナトリウム(Na2S2)存在下でパースルフィド化したPTP1Bに1,4-BQもしくは1,2-NQを反応させてPTP1B活性を阻害しても、ジチオスレイトールにより還元されて、当該活性が回復する結果を得た。細胞内においても、PTP1B結合パースルフィドは親電子修飾に対して可逆性を担保するか否か検討した。A431細胞をEGF曝露によりEGFRのリン酸化を亢進させると、そのリン酸化は曝露後180分まで認められて一過性であった。一方、環境中親電子物質である1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)で認められたEGFRの活性化は曝露後30-60分をピークに120分後では定常レベルまで減少し、180分後に再び活性化する二峰性を示した。Na2S2を前処理すると1,2-NQ曝露30分後のEGFRのリン酸化は減少する傾向が見られた。この結果から、1,2-NQがPTP1B結合パースルフィドへの修飾を介してEGFRを活性化し、何らかの還元を受けてモノスルフィドに再生しEGFRを抑制したと示唆された。次に、また、PTP1Bのシステイン残基は反応性が高く容易に酸化されることから、再生したシステイン残基が再び化学修飾を受けて二峰性を示したと推測される。
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