研究課題/領域番号 |
20K12181
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
鈴木 哲矢 広島大学, 医系科学研究科(薬), 助教 (20573950)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | DNA損傷 / 非B型DNA / 変異 / 損傷乗り越えDNA合成 / DNAポリメラーゼ ζ |
研究実績の概要 |
本研究では、DNA polymeraseζ(Polζ) によるDNA合成を必要とする内在的なDNA損傷や高次構造を検討し、Polζが関与する変異誘発およびゲノム不安定性要因を解明することを目的としている。 変異検出用のレポーター遺伝子であるsupF遺伝子の近傍に高次構造を取るDNA配列 (Z型DNA、3重鎖DNA) を導入したSV40 originとlarge T抗原を基盤としたシャトルプラスミドを構築した。またコントロールとして通常のB型構造を取る配列を導入したものも構築した。これらのシャトルプラスミドを野生型細胞とPolζ変異型細胞 (低正確性型:L2618M、低活性型:D2781N) にそれぞれ導入し、誘発される変異の解析を行った。その結果、低正確性型Polζ発現細胞では、Z型構造および3重鎖構造を導入したプラスミドのいずれも野生型細胞に比較して変異体頻度に差は見られなかった。一方、低活性型Polζ発現細胞では、野生型細胞と比較して、Z型構造を導入したものでは変異体頻度が高く、3重鎖構造を導入したものでは変異体頻度が低い傾向が見られたことから、これらのDNA構造の複製にPolζが関与している可能性が示唆された。 さらに、非B型DNA構造の影響を詳細に解析するため、複製様式が染色体DNAのそれに近いEpstein-BarrウイルスのOriPとEBNA1のシステムにより複製される実験系を構築し、supF遺伝子のより近傍に非B型配列を導入したシャトルプラスミドを構築した。また、RMCE (Recombinase-Mediated Cassette Exchange) 法を用いて、染色体中の特異的部位に損傷塩基を有するDNAを導入可能な系を構築するために、Tet-Onシステムを用いてCre recombinaseを薬剤 (ドキシサイクリン) で発現誘導可能な細胞を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はDNA損傷の影響について検討する予定であったが、予定を変更して非B型DNAの影響について解析を行った。非B型DNAの影響について、シャトルプラスミドを用いた実験によりPolζが関与する可能性を示唆する結果が得られるなどある程度目標を達成できた。また、新たにより染色体DNAの複製に近い様式で複製されるEBNA-OriPのシステムを搭載したシャトルプラスミドの系を構築し、培養細胞で機能することが確認できたことや、ゲノムDNAでの変異解析用の細胞の基盤となるCre recombinase発現細胞を作製できたことからおおむね順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
新たに構築したOriP-EBNA1の系に複製されるシャトルプラスミドを用いて非B型DNA構造の複製におけるPolζの役割について検討するとともに、DNA損傷である7,8-dihydro-8-oxoguanineや脱塩基部位あるいはリボヌクレオチドを部位特異的に含むオリゴDNAを用いて、supF遺伝子中あるいはその下流にこれらを導入したシャトルプラスミドを作製し、これらのプラスミドを野生型細胞とPolζ変異型細胞 (低正確性型:L2618M、低活性型:D2781N) にそれぞれ導入し、誘発される変異の解析を行いDNA損傷のDNA合成におけるPolζの関与とその役割を検討する。 また、Cre recombinase発現細胞にRMCEのアクセプターとなるincompatibleな2つのloxP配列を含むDNAをTK1遺伝子にノックインした細胞を作製する。さらに、RMCEのドナーとなるプラスミドを構築し、この細胞に導入しRMCEの効率を測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に発注した消耗品がコロナウイルスの関係で納期に遅れが生じ、納品が年度を越してしまったため。予定通り納品された消耗品に使用する。
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