研究課題/領域番号 |
20K12182
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
山崎 岳 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 教授 (30192397)
|
研究分担者 |
大黒 亜美 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 助教 (20634497)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ドコサヘキサエン酸 / メチル水銀 / ジヒドロキシドコサヘキサエン酸 / 神経保護作用 |
研究実績の概要 |
2021年度は,ドコサヘキサエン酸(DHA)の脳内代謝物による神経保護効果について詳しく調べた。 DHAはシトクロムP450(P450)によってDHAエポキシドとヒドロキシドに代謝され,DHAエポキシドはさらに可溶性エポキシド加水分解酵素(sEH)によって数種類のジヒドロドロキシドコサペンタエン酸(DHDP)に変換される。これらのDHA代謝物の神経保護作用における役割を,パーキンソン病のロテノン誘発ラットモデルを用いて解析した。まずラット脳内でDHAを代謝するP450,および2E1といった酵素が発現し,DHAエポキシドの形成に寄与していることを明らかにした。ラットにDHAを投与すると,ロテノンによって誘発される運動機能障害が改善され,その際線条体において,チロシンヒドロキシラーゼの減少と脂質過酸化の増加が回復した。この効果は,sEH阻害剤TPPUの同時投与よって減弱した。DHA投与後の脳内代謝物の LC-MSによる分析によると,脳内の19,20-DHDPの量は増加したが,DHAエポキシド量は有意に変化しない。TPPUの同時投与はDHDPの増加を抑制し,DHAエポキシドを増加させた。 続いて,外来化学物質であるメチル水銀に対する神経保護作用への影響を調べるために,ヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞と,マウス大脳初代培養神経細胞を用いた実験を行った。3microM のメチル水銀24時間処理後の細胞生存率を指標に毒性を調べると, 19,20-DHDPの前処理により,メチル水銀毒性が減弱した。この神経保護作用は DHAよりも低濃度で有意に見られた。 以上より,DHAによる外来化学物質に対する神経保護効果は,DHAの代謝物である19,20-DHDPによる効果が関与する可能性が強く示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多価脂肪酸のうち,昨年度はDHAによる神経保護作用を明らかにした。今年度は,DHAの代謝物が強い神経保護作用を有している事,DHAが脳内でその代謝物に変換されることを明らかにし,多価脂肪酸による神経保護作用の分子機構について,新たな知見を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
DHAによる神経保護作用について,その分子メカニズムに焦点をあててさらに追及していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究は予定通り進展したが,コロナ禍で学会がオンラインとなり,出張費が生じなかった。残額は次年度に繰り越して使用する。 令和4年度は,主に研究の消耗品として,一部は旅費や論文投稿料として使用する予定である。
|