研究実績の概要 |
2022年度は,脳へのメチル水銀毒性に対するドコサヘキサエン酸(DHA)及びその脳内代謝物による神経保護効果について,分子レベルで追及した。 ヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞と,マウス大脳初代培養神経細胞は,3microM のメチル水銀24時間処理により,細胞の半数が死滅する。この水銀濃度は,重篤な水俣病患者の死後脳の水銀濃度と同等である。 昨年度,パーキンソン病のロテノン誘発ラットモデル実験で明らかにしたように,DHAは脳内でより強力な神経保護作用を発揮する代謝物 ジヒドロドロキシドコサペンタエン酸(DHDP)に変換される。特に19,20-DHDPと16,17-HDPの量が多かった。そこでマウス大脳初代培養神経細胞をDHAおよびDHDP で前処理してのちにメチル水銀を作用させた。その結果,100nM のDHAは神経保護作用を示さなかったが,100nMの16,17-DHDP 19,20-DHDPは強い神経保護作用を示し,特に19,20-DHDPはスーパーオキサイドディスムターゼ,カタラーゼ、およびミクロソーム グルタチオン S-トランスフェラーゼ 1 といった抗酸化酵素類のmRNA レベルを増加させた。さらに 19,20-DHDP は、多剤耐性関連タンパク質 4 (MRP4) の mRNA を誘導したが、無機水銀輸送のトランスポーターである MRP1-3 の mRNA は誘導しなかった。MeHg添加後の細胞内 Hgレベルは,19,20-DHDP前処理では変動しなかった。 よって細胞レベルの実験から,19,20-DHDP,16,17-DHDPによる前処理はDHAよりも低濃度で神経保護作用を発揮し,19,20-DHDPの効果は,DHA と同様に,少なくとも部分的には抗酸化酵素類の発現亢進によるものであり,Hg の細胞外排出には影響しないことが明らかになった。
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