研究課題/領域番号 |
20K12184
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
阿草 哲郎 熊本県立大学, 環境共生学部, 准教授 (50403853)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒ素 / 大気汚染 / 牛ふん / 経気曝露 / 健康影響 |
研究実績の概要 |
本研究は「地下水ヒ素汚染地域における大気ヒ素汚染とヒトへの曝露影響」について明らかにする。具体的には、かまどでの調理の燃料に用いられる牛のふんに注目する。ヒ素を含む地下水を農地に散布すれば、稲わらにも、そしてそれを食べる牛にもヒ素が蓄積し、結果的にヒ素を含んだふんが排泄される。そのふんの燃焼によって大気へ放出されたヒ素がヒトの曝露源となっているかどうかを化学分析で明らかにする。影響に関しては、今までに地下水ヒ素汚染地域でなぜ肺がんが発症するか理由が不明であったため、本研究ではヒトにおけるヒ素の経気曝露の経路を確認し、肺がん等を中心にとした毒性影響との関連を細胞・動物実験も交えながら究明する。 今年度は、【①ヒ素汚染フィールド調査とサンプリング】として、「生活様式の異なるバングラデシュ・インド・ミャンマーをフィールドに、まずテストキットを用いて地下水をスクリーニングし、ヒ素汚染ホットスポットを特定する。この現地モニタリングからモデル地域(汚染地域・非汚染地域)を選択し、地域住民から血液・尿・毛髪を採取する。また、肺がんの検査として痰も採取する。地下水で灌漑している地域では、土壌、稲、米、牛肉、牛のふん、大気のサンプリングを行う。とくに、大気のサンプリングでは調理によるヒ素の放出の影響をみるため、調理人にエアサンプラーを装備してもらい、大気中の粒子画分・ガス画分を採取する。」という計画で実施する予定であった。しかし、新型コロナウイルスの感染症の影響に伴い、日本から出国し、現地調査とサンプリングをすることが実施不可能であった。また、現地の共同研究者に調査とサンプリングの依頼を依頼したが、国内でも新型コロナウイルス感染が危惧されたため、実施することができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、海外で調査したデータやサンプリングによって集めた試料を基に遂行される。しかしながら、その肝心要の海外調査とサンプリングが、世界的な新型コロナウイルス感染症の広がりとその長期化により、年度末まで機会を窺っていたが実施することができなかった。さらに、ミャンマーに関しては、国内で軍事政権によるクーデターが発生したため、今後の調査とサンプリングがきわめて難しい状況に追い込まれた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も新型コロナウイルスの問題はしばらく続くものと想定し、先行研究の結果を基に、学内でのin vitro/in vivo実験を実施していく。 具体的には、当初の計画の【④ヒ素の経気曝露による毒性影響メカニズムの解明】を改変して実施する。まず模擬牛ふんサンプルを作製・燃焼させ、大気サンプルを抽出する。in vitro実験では、これらをヒトの肝細胞・肺細胞に処理し、細胞死や酸化ストレスのLC50を算出し、毒性の評価を行う。細胞から抽出したRNAをNGSにかけることで網羅的に遺伝子発現を解析し、ヒ素の解毒のメカニズムを明らかにする。地下水についても同様のアプローチで実験を行う。これにより、大気と地下水によるヒ素曝露の毒性発現の程度・組織的な違いを明らかにする。次に、模擬牛ふんを燃焼させた煙と地下水をマウスに曝露させることで、曝露経路の違いによる毒性の発現様式を把握する。解析方法は細胞試験と同様のアプローチで実施する。以上、細胞・動物の結果とヒトでみられた結果との整合性を検証することで、経気曝露による特徴、肺がん発症のメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界規模での新型コロナウイルスの感染拡大と長期化のため、初年度で予定していた海外調査およびサンプリングが実施できなかったため。
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