研究課題/領域番号 |
20K12185
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
藤原 泰之 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (40247482)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒ素 / 血液凝固線溶系 / 血管内皮細胞 / 血管周囲脂肪組織 / 動脈硬化 |
研究実績の概要 |
ヒ素は世界中に広く存在する環境汚染物質の一つである。ヒ素曝露によって、皮膚の色素沈着や多臓器における発がん、循環器疾患など様々な健康被害が引き起こされることが知られている。本研究では、ヒ素曝露によって引き起こされる血管内皮細胞機能障害機構の解明を目的とし、培養血管内皮細胞を用いて、亜ヒ酸およびその代謝物の曝露が線溶活性因子に及ぼす影響とその詳細なメカニズム解明を目指している。また、血管内皮細胞以外の血管平滑筋細胞や血球系細胞などにも焦点をあてるとともに、実験動物を用いた個体レベルでの検討も併せて行うことで、亜ヒ酸による血管毒性発現機構の解明研究に新しい展開をもたらすことを目的としている。 2020年度は、ヒト血管内皮細胞を用いて、亜ヒ酸による血管内皮細胞の線溶活性低下の毒性発現メカニズムを検討し、以下の知見を得た。①亜ヒ酸は、ヒト血管内皮細胞に対して細胞傷害を生じない濃度において、液相の線溶活性を低下させる。②その亜ヒ酸による線溶活性の低下は、亜ヒ酸による組織型プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)の選択的な産生抑制に起因する。③そのt-PAの産生抑制には、亜ヒ酸による血管内皮細胞のNrf-2/ARE経路の活性化が重要である。すなわち、亜ヒ酸は血管内皮細胞に対してNrf-2/ARE経路の活性化を介してt-PAの産生を選択的に抑制し、その結果として液相のt-PA線溶活性を低下させることを見出した。また、亜ヒ酸は、血管平滑筋細胞やマクロファージ様細胞に対しては、t-PAの阻害因子であるプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)の発現を増加させることを確認した。したがって、亜ヒ酸は血管構成細胞に対してそれぞれ異なった様式で線溶活性の低下を引き起こすことが示唆された。今後、研究実施計画に従い、さらに研究を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、ヒト血管内皮細胞を用いて、亜ヒ酸による血管内皮細胞の線溶活性低下の毒性発現メカニズムを分子レベルで明らかにすることを目的として検討を行い、亜ヒ酸は血管内皮細胞に対してNrf-2/ARE経路の活性化を介してt-PAの産生を選択的に抑制し、その結果として液相のt-PA線溶活性を低下させることを見出した。本研究成果は、Int. J. Mol. Sci.誌に掲載された(Nakano et al., Int. J. Mol. Sci., 22(2), 739, 2021.)。実験動物を用いた個体レベルでの検討が少し遅れているものの、当初の研究実施計画に従い、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、研究実施計画にそって概ね順調に進行しているので、基本的には2021年度以降も当初の研究実施計画に基づき研究を推進していく予定である。 2021年度の研究実施計画としては、①マウスに亜ヒ酸を腹腔内投与した後、胸腹部大動脈を摘出し、内膜の血管内皮細胞を含む画分を単離後、線溶関連遺伝子の発現変化等を検討し、個体レベルでの血管内皮細胞への亜ヒ酸の影響を培養細胞の結果と比較する。②血管内皮細胞で明らかになった亜ヒ酸の毒性発現様式とその作用発現メカニズムの結果を基に、他の細胞種の線溶活性に対する亜ヒ酸の影響を検討し、血管組織全体としての亜ヒ酸の線溶活性に対する毒性を評価する。③また、亜ヒ酸を投与したマウスの胸腹部大動脈から血管周囲脂肪組織(PVAT)を単離し、PVATにおける線溶関連遺伝子の発現における亜ヒ酸影響を検討する。これら検討により血管組織全への影響を把握することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由: 次年度使用額(B-A)として、93,248円が発生した。これは2020年度末に購入予定の物品が、納期の関係で次年度購入を余儀なくされたためである。
使用計画: 今年度(2021年度)に必要な物品を購入し使用する。
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