研究課題
本研究では、亜ヒ酸の曝露が凝固・線溶系因子の発現に及ぼす影響とその詳細なメカニズム解明を目指している。また、血管内皮細胞以外の血管平滑筋細胞や血球系細胞などにも焦点を当てるとともに、実験動物を用いた個体レベルでの検討も併せて行うことで、亜ヒ酸による血管毒性発現機構の解明研究に新しい展開をもたらすことを目指している。【2022年度】では、2020年度および2021年度に細胞レベルで確認された亜ヒ酸による線溶活性の阻害作用が個体レベルでも同様に引き起こされる可能性についてマウスを用いて検討を行った。対照群と比較した場合、亜ヒ酸単回投与24時間後のマウス血清において、t-PAタンパク質量の有意な減少が認められたが、胸部大動脈および血管周囲脂肪組織(PVAT)中のt-PAタンパク質量に有意な変化は認められなかった。血清中のPAI-1量も有意な変化は認められなかった。亜ヒ酸単回投与3時間後のt-PAおよびPAI-1 のmRNA量を確認したところ、胸部大動脈では有意な変化は認められなかったが、PVATにおいて、t-PAのmRNA量の有意な減少が観察され、亜ヒ酸曝露による早期のPVATのt-PA発現抑制が、血清中のt-PAタンパク質量の減少に関与している可能性が示唆された。また、亜ヒ酸を2週間連続投与した場合には、血管内皮細胞を含む胸部大動脈におけるt-PAの発現抑制が血清中のt-PAタンパク質量の減少に関与していることが示唆された。以上の結果より、亜ヒ酸はマウスの胸部大動脈およびPVATに対して線溶促進因子であるt-PAの発現低下を引き起こすとともに血清中のt-PA量を減少させることが明らかとなった。したがって、個体レベルにおいても、亜ヒ酸は線溶因子の発現抑制を介して線溶活性を阻害することが示唆された。
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