CMIP5およびCMIP6モデル群を用いて,農業開発研究投資10億ドルあたりのトウモロコシ収量の伸びを算出した.対象国は1996-2005年平均のトウモロコシ生産量が10万トン以上の71カ国である.温暖化が著しい+2.4℃シナリオの場合(RCP8.5),緩和できた場合の+1.7℃シナリオ(RCP2.6)と比較して今世紀半ばの収量の伸びは鈍化し,この傾向は世界銀行が分類する高所得国より低中所得国や低所得国でより顕著であった.特に,+2.4℃シナリオの低所得国の収量増加率は15.6%であり,+1.7℃シナリオの27.2%に比べて収量の伸びが半減した.得られた結果は,使用する気候モデル群の世代(CMIP5とCMIP6)に依存しなかった.1979-2018年で世界の食料生産量は125%に増加したが収量の伸びはこのうち73%を占めており,人口増加が著しい開発途上国の人口を養うためには気候変動の緩和が不可欠であることを示している. 高所得国における気候変動の影響は,生産量の増減と品質の劣化の双方に現れる.食料消費が飽和状態にあるため,品質の低下が著しい場合には穀物価格が低下し,生産者の所得が減少する.気候変動の影響を大きく受ける米の主要産地として九州と東北を取り上げ,気候モデルによる収穫量・品質の予測から生産額の変化を算出した.Process based modelによる分析から,品種別の変化を識別し,10kmメッシュごとの変化を図示した.過去の統計学的分析との整合性から天候と農産物生産額との因果関係を生理学的メカニズムに応じて分析できることが示され,適応戦略として移植日等のフェノロジーを改善することの妥当性が示された.同時に生産額変動の地域特性や生産調整の強化といった過剰生産への制度的対応の必要性も示唆された.
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