本研究は、沖縄県赤土等流出が海域の生物生息環境に及ぼす影響およびその対策効果を、赤土等流出水域において海中発音生物のテッポウエビ類の1分間当たりの発音回数(以降、パルス数)をモニタリングすることで明らかにすることを目的としている。コロナ感染症緊急事態宣言、蔓延防止法重点措置により令和2年度の沖縄県沿岸における現地調査が実施できなかったため研究期間を令和5年度まで1年間延長した。令和3年8月に調査地点選定のための現地調査結果と沖縄県赤土等流出防止対策基本計画中間報告による赤土等流出状況を分析し、宜野座村漢那漁港周辺海域の3地点と沖縄県沿岸域の赤土等の流出状況が異なる5地点を設定した。宜野座村漢那漁港周辺海域は赤土等流出する河川の河口域2地点(影響区)と河口域から2kmほど離れた地点(対象区)において、パルス数の変動を比較する。また沖縄県沿岸部では赤土等流出海域として宜野座、辺野古、赤土等流出がない地点として港川、屋我地、宜名真のパルス数の変動を比較する。調査時期は、梅雨による赤土等流出後の夏季、台風により赤土等が拡散した冬季、波浪等により赤土等がさらに拡散した春季の年3回とし、令和3年度から令和5年度の研究期間内に計9回の調査を実施した。全ての調査地点でテッポウエビ類にパルス音を観測し、テッポウエビ類の生息を確認できた。環境の異なる地点間では本来のテッポウエビ類の生息数が異なるためパルス数では比較できないため、直前の調査で観測されたパルス数からの増減率を指標として評価を行った。この結果、赤土等流出の影響のない対照水域では夏期にパルス数が増加し、赤土等の流出が多い水域では夏期にパルス数の減少が見られるあるいは、増加割合が小さいことが分かった。本手法による生物生息環境への赤土等流出の影響や対策の効果を検証できる可能性を示すことができた。
|