研究課題/領域番号 |
20K12208
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
朝倉 宏 長崎大学, 総合生産科学域 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (00391061)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マイクロプラスチック / 底質 / 含有重量 / 測定手法開発 / 重液 / 選別 |
研究実績の概要 |
本研究では、マイクロプラスチック(MPs)を簡便かつ迅速に重量測定ができる手法を開発することを目指すため、三種類の実験を行った。 第一に、純水や海水では浮上させられないMPsを浮上分離させることのできる重液のうち、海洋中に流出しても問題のない安全かつ低廉なものを提案し、特性評価と洗浄方法を提案した。具体的には、飽和CaCl2溶液を用いた重液の密度測定により、温度の上昇とともに、密度も増加した。水道水や海水では、浮上するプラは主にPEやPPであり、それ以外のPVCやPET素材のプラは沈下する。一方、重液として常温(20℃)の飽和CaCl2を用いると、PEやPPだけでなく、PF以外の重質プラを浮上させることができる。 第二に、浮上MPsの回収作業において、回収率が高く、必要時間の短い方法を提案した。高い回収率での評価を試みたが、粒径の大小(Sサイズ除く)及び模擬MPs試料の品目(4品目)に関係なく、いずれも回収率97%以上で大きな違いはなかった。そのため単位時間あたりの回収率で評価すると、粒径Mサイズは浸漬ボトル法が他の回収方法に比べて高かった。加えて、定性的な評価においても、用意した重液以上の量を必要としない、回収対象物が目視で見えなかったとしても作業が難航しない、短時間の乾燥という他の回収方法よりも優れているので、浸漬ボトル法が分析方法の導入には最適であると考える。 第三に、MPsとともに浮上してくる木などの非プラ性有機物を除去する手法の開発を行った。このとき、非プラ性有機物の除去率が高く、MPsの損失が少ないことを目標とした。H2O2を用いて、おがくずの分解を試みたが、どれほどH2O2の量を多くしても残存率が40%程度で一定となってしまい、これ以上の分解は期待できなかった。そこで、木を水に浸漬させ、煮沸することで、完全かつ短時間で木を沈下させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者提案の重液によるMPs軽量および重量プラ分離効率の把握と,酸分解による模擬試料の分解率評価を行うことを計画した。 軽質プラ(ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP)など)と,重質プラ(塩化ビニル(PVC),PET樹脂(PET)など)をそれぞれ複数種購入し,破砕・分画して,模擬標準MPsを作成できた。それぞれの密度を測定した。また,純水より密度が小さいものは測定しにくいが,この測定方法も開発した。純水(比重1),人工海水(比重1.02),塩化Ca飽和溶液(比重1.34)を重液とし,これらの密度を測定した。また,温度によって密度が大きく変化することも把握できた。以上から,重液ごとの浮く素材を厳密に把握できた。重液を用いて,いくつかのMPs選別実験を行った。扱いやすく,時間が短い方法を提案できた。 MPs分解率が低く夾雑物分解率が高い分解条件の探索を一部実施した。MPsと同時に浮上する有機物系の夾雑物として,木を想定した。この木の過酸化水素による分解を試行したが,重量で40%以上は分解できなかった。そこで,煮沸による沈降促進方法を開発した。 海岸などに現場に出向き,夾雑物材料として砂や土を採取する予定であったが,新型コロナの感染拡大のため,手持ちの砂や軽石で代用した。 以上から,当初の研究計画を概ね遂行できていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
実際の海岸底質とMPsを混合した模擬試料を用いて,申請者提案の方法によるMPs分離測定方法の効果を評価する。また,長崎県内外の多数の海岸や河川で採取した底質を対象とした,MPs含有重量調査を行う。 実際の海岸底質とMPsを混合し提案するMPs分離測定方法の効率を評価する。長崎県内の海岸底質を10か所程度採取し,模擬標準MPsを混合する。提案する方法でMPsを分離測定し,MPsの回収率を得る。このとき木や外骨格の混入量が多いとMPs回収率が低下する恐れがあるため,混入量に応じた酸分解条件(濃度や加熱温度など)を探索する。 長崎県内外の海岸および河川底質を採取しMPs含有重量調査を行う。長崎県内で10か所(長崎市近辺6,他4),長崎県外で20か所(九州5,本州15)を調査対象地とする。長崎市近辺は毎月調査し,2年分の時系列データを得て,季節変動と立地による差を統計処理できるデータ量とする。特に厳密に同じ地点で試料を採取することで,過去から存在してきたMPs量と新たに漂着したMPs量を区別できるようにすることを目標とする。長崎県内他4か所は4季節×2年の変動を得ることを目標とする。長崎県外は1年に一度とする代わりに,車両などで移動しながら多地点で採取・分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの感染拡大により,学内実験の開始が遅れた。また,現場出張を見送った。 翌年度は,次年度使用額となった29万円を有効に旅費として使用し,現場を回って調査する。
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