研究実績の概要 |
本年度は、シックハウス症候群の原因物質の1つであるフタル酸エステルの皮膚内代謝に及ぼす種々エステラーゼ阻害剤の影響を評価するとともに、フタル酸エステルの経皮吸収における個体差とエステラーゼ活性やカルボキシルエステラーゼの皮膚内分布量の関連性について検討し、以下の成果を得た。 フタル酸ジブチル(DBP)はヒト皮膚ホモジネート中で活性代謝物フタル酸モノブチル(BP)に加水分解され、その挙動はMichaelis-Menten型の代謝挙動を示した。この加水分解速度は、paraoxonase 1 (PON1)阻害剤であるetylenediaminetetraacetic acid(EDTA)の併用により変化しなかったが、セリンプロテアーゼ(CES, PON1, butyrylcholineesteraseを含む)阻害剤であるパラオキソンやphenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)、CES阻害剤であるbis(p-nitrophenyl) phosphate(BNPP)により低下し、フタル酸エステルの皮膚内代謝は主にCESが担っていることが示唆された。 ヒト皮膚にDBPを適用すると、角質層中には主にDBPが存在したが、角質層以下ではBP濃度がDBP濃度を上回り、真皮側には主にBPが透過してきた。DBPとBPの皮膚内濃度や透過量、およびそのBP/DBP比は個体間で大きく異なったが、皮膚中BP濃度は皮膚内DBP加水分解速度と正の相関を示した。この結果は、フタル酸エステルの経皮吸収は皮膚内のエステラーゼ活性に左右されることを示唆しているが、個体数を増やしてさらなる検証を進める必要がある。
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