ヒ素を含む掘削岩はトンネル工事等で大量に発生するため,周辺環境にヒ素が溶脱しないように対策し,再利活用が求められている.対策の設計には,掘削岩からのヒ素溶脱量の正確な評価が必要である.掘削岩からのヒ素溶脱は岩表面上に存在する特定のヒ素吸着形態から生じることがわかっている.しかし,溶脱過程において大気曝露等によって岩表面が構造変質しヒ素形態が易溶化するため,正確にヒ素溶脱量が評価できていない.本研究では,溶脱過程におけるヒ素形態の変化を岩表面の構造変質と関連付けながら解明する. 2022年度は日光の照射と温度変化のある温室ハウス内と暗所かつ室温一定の室内において,掘削岩に乾湿繰返し操作を行い,日光や温度変化が重金属等放出挙動へ影響を与えたか、黄鉄鉱の酸化に焦点を当てて調査した.乾湿繰返しによる黄鉄鉱の酸化進行や重金属等の放出量の変化は,日光の照射および気温変化など雰囲気条件の違いによりも乾燥と湿潤の繰返しサイクル数に大きく依存することが示された. 以上のことから,掘削岩表面の構造変質に伴うヒ素形態の変化および放出過程として,炭酸化,岩の細粒化が直接的にヒ素放出を促進/抑制する寄与は小さいと考えられた.細粒化に伴う比表面積の増加に伴い黄鉄鉱の酸化が進行し,ヒ素放出を促進することが考えられた.しかし,黄鉄鉱酸化に伴う鉄酸化水酸化物の生成によってヒ素形態が難溶化,放出特性も低下することが考えられた.また,還元的な雰囲気下よりも乾湿繰返しによってヒ素放出特性が変化することが彰となった.
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