研究課題/領域番号 |
20K12214
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研究機関 | 大阪市立環境科学研究センター |
研究代表者 |
市原 真紀子 大阪市立環境科学研究センター, その他部局等, 研究員 (60591865)
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研究分担者 |
山本 敦史 公立鳥取環境大学, 環境学部, 准教授 (40332449)
須戸 幹 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (50206570)
浅川 大地 大阪市立環境科学研究センター, その他部局等, 研究主任 (80470251)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 残留移動性有機化合物 / PMOC / 1,3-ジフェニルグアニジン / シアノグアニジン / 環境水 / LC-MS/MS / 分析法開発 / 添加回収試験 |
研究実績の概要 |
近年、欧州で注目される「残留移動性有機化合物(PMOCs)」は、残留性と親水性を併せ持つため一旦水環境中に流入すると上下水処理で除去されにくく、最終的に水道水源水質の脅威となる。本研究では、PMOCsのなかでも高頻度で検出され調査の優先度が高く、国内の調査事例がない1,3-diphenylguanidine(DPG)に着目した。先行研究の環境水中DPG値は簡易定量結果であり、DPGの精確な測定法は未確立であるため、本研究では液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて環境水中のDPG測定法を確立した。 調査対象物質は先行研究のPMOCスコアを参考にDPGを含む7種のグアニジン類化合物とした。まず、分析に用いるLCカラム5種を検討し、グアニジン類化合物の装置検出下限(IDL)値が低く、なおかつ比較的保持力の強かったNucleodur HILICカラムを用いることとした。水試料の前処理は固相7種を検討した結果、cyanoguanidine(CG)以外はOasis WCX(弱陽イオン交換固相)、CGはSep-Pak AC2(活性炭固相)の使用が適していた。次に、含水メタノールによる精製処理を検討したところ、CG及びN,N'''-1,6-hexanediylbis(N'-cyanoguanidine)の回収率低下が見られたため、精製処理は行わないこととした。超純水を用いたブランク試験ではCGが最大200ng/L検出され、分析時は超純水からのCG汚染に注意を要することが分かった。河川水への添加回収試験(n=7)では1-(4-cyanophenyl)guanidine (CPG)以外の6種は約80-120%の良好な回収率が得られた。一方、CPG回収率は約40%の場合があり、前処理器具をガラスからポリプロピレン製に変更する事でCPG回収率は約70%に改善した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目である今年度の研究計画は「環境水中DPG類分析法の開発」である。分析法開発における具体的な検討内容として、LCカラム及び固相カラムの選定、精製処理方法の検討、環境水を用いた添加回収試験を挙げていたが、その全てを実施済みである。調査対象物質7種のうち1種について前処理方法を検討中ではあるものの、DPG類分析法を確立しており、研究はおおむね順調に進展しているといえる。また、2年目以降に予定している「淀川水系河川水の通年調査」についても1年目に予備調査を実施しており、2年目から本調査を実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
DPGを含むグアニジン類を対象とした淀川水系河川調査においては、琵琶湖(深度別)、淀川の支流三川(木津川・宇治川・桂川)及び淀川本川、下水放流水の12地点に水道水(滋賀県・大阪市)を合わせた計14試料について、年6回(2ヶ月/回)の通年調査を実施予定である。予備調査ではDPGとCGは調査した全地点から検出されており、環境水中における広範囲な存在が示唆されるため、排出源調査を併行して実施予定である。 「下水道及び上水道におけるDPG類除去率の算出」については下水処理場及び浄水場に試料提供を依頼予定であるが、まずは研究代表者自らがサンプリング可能である前述の淀川調査を先行させる。なお、水道水中のDPGは塩素処理によりDPG塩素化体が生成され、一部のDPG塩素化体はDPGより毒性が増強することが最新の研究で報告されている。そこで、LCクロマトグラフ飛行時間型質量分析計(LC-TOFMS)を用いて水道水中のDPG塩素化体の探索及び同定を行う。まずは室内実験において高濃度のDPG添加超純水を塩素処理し、DPG塩素化体の探索を行う予定である。 また、本研究で確立した環境水中のDPG類分析法を応用し、大気中のDPG類測定法を確立する。測定法が確立次第、大阪における大気中のDPG類測定を実施する。 本研究の最終目標は「DPG流出負荷量モデルの構築」であるが、上記で挙げた淀川流域調査は流域面積が広大であるため負荷量算出に様々なパラメーターの設定が必要となり、モデル計算に用いる基礎データとしての取り扱いは困難であると想定される。そこで、負荷量モデル構築に用いるデータ取得のために最適なフィールドやデータ取得方法について、水圏負荷量モデルの専門家とディスカッションを行い、調査計画を策定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
グアニジン類の分析法検討に当初の想定より時間を要し、分析法の確立が年度末ぎりぎりになった。分析法が定まらないと前処理に必要な試薬や器具が決定しないため、1年目で購入予定であった消耗品を次年度に繰り越すことになった。 次年度は、グアニジン類分析を行うのに必要な試薬・器具類について順次購入する予定である。
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