嫌気性ヒ素酸化細菌を利用した淡水資源のヒ素汚染対策法の開発に向け、モデル微生物候補であるM52株の研究を進めた。分類学上の位置が未確定であったM52株について、これを基準株とする新種Sulfuricystis thermophila提唱した。これに伴い、新属としてSulfuricystis属を定義し、その上位分類群であるSterolibacteriaceae科の範囲を修正することも併せて提唱した。この結論を得るため、M52株の培養法を確立し、培養実験によって基礎的な性状(増殖基質、pH選好性、菌体脂肪酸組成等)を明らかにした。 M52株によるヒ素酸化は、特徴的なヒ素酸化酵素であるArxによって触媒されるものと考えられている。この酵素をコードするarxA遺伝子は、嫌気性ヒ素酸化細菌を検出するためのマーカーとして利用できることが示唆されている。環境中からarxA遺伝子を網羅的に検出するための既存のプライマーは、多様なarxA遺伝子をカバーするために混合塩基を多く含んでおり、非特異的な増幅が起こりやすいという欠点がある。arxA遺伝子の中から淡水環境において重要と思われる系統を選定し、これのみを対象としたプライマーセットを開発した。研究計画期間中に新たに発見されたarxA遺伝子配列も考慮に入れ、淡水環境の解析に特化した新たなプライマーを設計した。実際にPCR増幅が可能であるかの確認は、当該遺伝子の存在が確認されている淡水性硫黄酸化細菌5株を用いて行った。 新たな嫌気性ヒ素酸化細菌の探索を目的とし、先行研究で有効性の示されている硫黄酸化細菌の集積培養を行った。接種源や培地組成、培養温度の組み合わせを変えることで、優占種の異なる集積培養を多数確立した。これらの培養系を対象に、上記のプライマーセットを適用したが、arxA遺伝子は検出されなかった。
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