研究課題/領域番号 |
20K12221
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
井上 雅裕 愛媛大学, 理学部, 研究員 (80203256)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 植物の金属集積性と金属耐性 / 植物の金属耐性 / ナトリウムイオン / リチウムイオン / セシウムイオン / ニッケルイオン / バイオリガンド / ファイトリメディエーション |
研究実績の概要 |
2020年度からの当初2年間は、ナス科植物トマトのマイクロトム品種の芽生えと培養細胞の両方を用いて研究を進めた結果、 ①水耕法により根から与えたLiイオンが地上部器官の成長・形態、吸水・蒸散速度に及ぼす影響、②植物体内へのLi吸収・輸送速度と器官部位別に生じるLiの分布・濃度変化等を明らかにした。また、③無菌条件下でのトマト懸濁培養細胞の成長に対するNa、Li、Csイオンの影響を比較検証し、各金属イオンによる特異的・非特異的な作用を明らかにした。さらに、その他の結果も含め、各金属に対するトマトの細胞・組織・個体レベルでの耐性機構について考察し、複数の国内学会にて研究成果を公表した。 2022年度以降は、トマト以外の多様な金属集積植物にも目を向けた。まず、④金属集積性に優れる単子葉植物イネの芽生え、⑤コケ植物・蘚類のユミダイゴケの原系体を用いて、各々に特異的な金属集積・耐性機構を解明した。また、⑥条件的CAM植物であるアイスプラントとスベリヒユの2種、恒常的CAM植物であるコダカラソウとキンチョウ2種の各芽生えを用いてアルカリ金属の吸収・集積特性および耐性も評価した。以上の研究成果を取りまとめ複数の国内学会で公表した。 研究延長を申請した2023年度には、前述のCAM植物の研究を進めるとともに、実践的水質浄化植物として利活用が期待される水生植物にも着目した。具体的には、⑦アオウキクサ属4種を用いて、Na・Li・Csイオンおよび重金属Niイオンの吸収・耐性評価実験を進め、その成果を日本植物学会第87回大会(北海道大学)で公表した。さらに、金属集積性・耐性機構におけるバイオリガンドと共生菌類の重要性についても考察を深めて執筆を行い、同時に海外研究者の協力も得て専門書一冊を(World Scientific社)を発刊し世界に公表することができた。以上
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度はそれまでの年度(2020-2022年度)とは異なりコロナ禍の影響は緩和され、研究成果の発表も究者間での情報交換もオンサイトで進めることができた。しかし、学内の研究施設老朽化による長期工事(3月完了)が行われ元素分析の測定にも支障が生じた。これに伴い、研究成果の最終的な取りまとめ(論文執筆)や研究交流がまだ十分とは言えない。一方、室内における植物の成長・栽培実験およびリガンド分析については一部のサンプルを除きほぼ予定通りに実施できている。今回、2024年度末まで本事業の補助事業期間の再延期を認めて頂いたので、2024年度内に最終データの収集と取りまとめを完了し、研究成果の公開にも注力したい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究(2020-2023年度)で、アルカリ金属のNa, Li, Csと重金属Niについて、トマトとイネ、複数のCAM植物の植物体を用いてかなりの情報を得ることができている。維管束を持たないコケ植物との対比もできている。しかし、まだ、一部の金属元素分析やデータ分析が完了していないので、これらの完了を最初の課題とする。次に、トマト以外の植物、特に、CAM植物の細胞レベルでの金属集積性の仕組みを知る必要がある。スベリヒユとコダカラベンケイソウなど懸濁細胞の継代培養に成功しているので、これらの金属元素とリガンドを金属処理毎に分析したい。さらに、3つ目の課題として、ウキクサの金属集積性についても研究の取りまとめを行う。以上の研究成果に基づいて、各界からの意見も取り入れて、塩集積性およびPR技術に応用可能な原理について総括を行う。これにより本研究の最終目標である植物環境修復技術の改善に資することができる情報提供に結びつけたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では2022年度が最終年度でしたが2023年度の科研費事業延長を許可頂きました。さらに本年3月に再延長を申請しご承諾頂きましたので、2024年度も本事業を継続いたします。2024年度の使用計画と見積額は、消耗品20万円、国内旅費14万円、その他10万円、を予定しています。
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