研究課題/領域番号 |
20K12232
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
後藤 猛 秋田大学, 本部, 理事 (10215494)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シリカ生成ペプチド / 分子インプリント / シリカテイン / レアメタル / レアアース |
研究実績の概要 |
本研究は,自然界の仕組みを模倣・活用し,標的とする金属をインプリントしたペプチドとシリカで形成された選択的金属吸着担体を開発することを目的とするものである。これには,海産珪藻シリカの結晶生成と成長を誘起するペプチド(R5)にHisタグを付加したR5His6と,当研究室で開発した金属結合性を有する接着性ペプチド(MBP)を用いた。はじめに,R5His6 および MBP をコードするプラスミドを用いて形質転換した大腸菌を培養し,IPTGと共にTEOS/HCl混合溶液を加え,ペプチドの発現およびシリカ形成を試みた。培養フラスコに壁面に固形物の生成が認められ,これは,FT-IR および SEM-EDS分析から,シリカであることがわかった。一方,形質転換していない大腸菌の培養では固形物の生成は見られなかった。また,菌体の可用性画分と不溶性画分,および固形物から抽出したタンパク質についてSDS-PAGE(CBB染色)および Hisタグ抗体を用いたWestern Blotを行ったが,MBPおよび R5His6 の発現は検出できなかった。さらに,組換え大腸菌の培養後の抽出物にTEOS/HCl 混合溶液を加え24 時間インキュベートしたところ,白色沈殿が生じた。これをSEM-EDSにより分析したところ,Si のピークが確認され,沈殿はシリカであることがわかった。一方,形質転換していない大腸菌の培養抽出物では,同様の実験においてシリカ沈殿は生成しなかった。これらの結果から,大腸菌により生産したR5His6および金属結合性ペプチドMBPは微量ながら生成し,シリカ形成活性を有することが示唆された。 一方,シリカ重合反応を触媒するシリカテインαの発現ベクターを構築し,大腸菌を形質転換した。この組換え大腸菌の培養によりシリカテインαを大量発現することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年間の研究期間中の初年度としては比較的高い以下のような到達目標を掲げた。 (1)海産珪藻シリカの結晶生成と成長を誘起するペプチド(R5)にHisタグを付加したR5His6と,当研究室で開発した金属結合性を有する接着性ペプチド(MBP)をコードする発現プラスミドを構築し,これにより形質転換した組換え大腸菌を調製する。さらに,これらの組換え大腸菌の培養によりペプチドを生産すると共に,ペプチドを利用したシリカ結晶を得る。 (2)R5ペプチド等によって生成したシリカ結晶を取扱いが容易なサイズにまで成長させるため,シリカ重合反応を触媒するシリカテインαの発現ベクターを構築し,シリカテインα発現組換え大腸菌を調製する。 (3)ペプチドおよびNi存在下でシリカ粒子を調製し,Niをインプリントしたペプチドシリカ担体を調製する。 これらの到達目標のうち,(3)については達成できなかったが,これは研究初年度の目標としては少し高めに設定したこと,さらに(1)においてペプチド発現量が予想外に微量であったことが原因である。この問題に対しては対応策を考えており,令和3年度以降に研究が進展できると考えられることから,本研究の進捗状況をおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前述のとおり,令和2年度において,R5His6およびMBPをコードする遺伝子を導入した組換え大腸菌の培養において,TEOS/HCl共存下でシリカの形成は認められたものの,ペプチドの明確な生成を確認することはできなかった。これは,短鎖ペプチドは細胞内で異物と認識されてプロテアーゼ分解され易いことが原因と考えられる。そこで,R5His6およびMBPの配列を繰り返した長鎖ポリペプチドを用いることとし,その発現ベクターを構築して大腸菌を形質転換する。得られた組換え大腸菌の培養による長鎖ポリペプチドの発現量ならびにシリカ生成量を調べる。 一方,シリカテインαの大腸菌発現株を構築し,シリカテインαの生成に成功したが,可溶性タグを付加しても多くが水に不溶な封入体として発現した。そこで,封入体のリフォールディング条件の検討と,必要であれば可溶性タグの変更を検討する。 次にターゲット金属のモデルとしてNiを用い,上記により調製した長鎖ポリペプチドをNiイオンに配位させた後TEOSを加え,さらにシリカテインαを加えてポリペプチドをシリカで被覆した粒子を成長させる。その際,各種濃度,温度および時間を変化させ,粒子サイズの異なる吸着体を調製するとともに,それぞれの特徴をSEMおよびDSCにより分析する。 得られたポリペプチド-シリカ担体からpH変化によりNiを脱離させ,Niインプリント・ポリペプチド-シリカ担体を得る。この担体を用いてNiおよび種々の競合金属に対する等温吸着実験を一成分系と多成分系で行い,吸着担体の選択性,安定性,再利用性等を明らかにする。さらに,対象を貴金属,レアメタル,レアアース元素,有機態金属(メチル水銀およびエチル水銀)に広げ,これらをインプリントしたポリペプチド-シリカ担体を調製して吸着特性解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により,国内学会がすべてオンライン開催となり,また国際学会についても中止となったことにより,旅費の支出がなかった。また,物品としてゲル撮影装置を購入する予定でいたが,目的のペプチドの発現量が明確に検出できなかったこと,大学における県外業者の入構規制があったことから,令和2年度の購入は見送ることとした。なお,十分な発現が得られなかった短鎖ペプチドに代えて長鎖のポリペプチドを設計し直す予定であり,未使用額はそのcDNAの合成等に充てる。
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