本研究では、イオン液体 (IL) をセルロース溶媒としたリヨセル法を採用し、凝固液から受ける抵抗を低減することで、再生セルロース繊維の紡糸速度を従来と比べ大幅に高めることを目的として検討を行った。溶媒には熱安定性・リサイクル性に優れるイミダゾリウム系ILの1-butyl-3-methylimidazolium chlorideおよび1-ethyl-3-methylimidazolium diethyl phosphateを選定した。具体的には、数μmの微細な水霧を凝固に利用することで凝固剤による抵抗を大幅に抑制し、種々の紡糸条件(ノズル形状、セルロースの分子量や濃度、紡糸液温度など)を精査することで、紡糸速度1000m/minを超えるセルロースの再生繊維化に成功した。紡糸の安定化および高速化には、エアギャップ(ノズル出口から凝固チャンバーまでの空間)の温湿度の制御が極めて重要であることを定量的に把握した。またエアギャップ雰囲気は、得られる繊維物性にも重大な影響を及ぼすことも明らかにした。異なるエアギャップ条件で作製した再生繊維について、引っ張り強度と耐フィブリル性の関係を調べた結果、強度とフィブリル化には負の相関があることが判明した。すなわちエアギャップ雰囲気が低温低湿であれば、分子配向が高度に進み強度が向上しフィブリル化が起こりやすくなるのに対して、高温高湿になると強度は低下するもののフィブリル化が起こりにくくなった。これらは、再生セルロース繊維を実用化する際、生産量向上技術ならびに物性制御の観点より極めて有用な知見であると考えられる。
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