研究課題/領域番号 |
20K12254
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
伊藤 浩二 岐阜大学, 地域協学センター, 助教 (30530141)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 生態系サービス / 持続可能性 / 里山 / 資源循環 / 粗放的管理 |
研究実績の概要 |
生物多様性の保全と持続可能な社会の実現に向けて、複数の生態系サービス間の相乗効果を実現する新たな農林業システムの構築が必要とされている。本研究は耕作放棄地等の管理放棄地の持続的管理と活用を目的に、石川県能登半島で新たに構築されつつある社会生態システム(クヌギ林生態系、水田生態系)において、①生態系復元(生物多様性)、②生態系サービスのうち特に供給サービス、③復元・管理の効率性をそれぞれ指標する項目を調査しこれら3つの指標が同時に達成可能かを検証した。 クヌギ林生態系では植栽及び伐採履歴の異なる複数の林分にて植生調査を実施し、クロノシーケンス法で施業と植物種多様性の関係性を明らかにした。植樹2-3年後の林分では耕地雑草群落および荒地雑草群落を特色づける一年生草本の出現が特徴的であった一方、植樹後8-9年を経過した林分ではクヌギ林冠がほぼ閉塞し、森林生および草原生の小型多年生草本や木本種実生が増加していた。また萌芽更新を1回経験した林分では一時的にイタドリ、フキが優占する草原的環境に変化したものの、ニシノホンモンジスゲ、ミツバツチグリ等の林冠閉鎖時に増加した種が引き続き共存しており、種多様性の大きな低下は認められなかった。萌芽更新後再び林冠閉鎖した林分では、イタドリやシシウドなど高茎草本群落を構成する種群が低被度で存続する一方、草原生種や鳥散布によると思われる木本種の増加により種多様度の高い林床植生が形成されていた。 水田生態系では、無農薬栽培水田にて肥料および雑草抑制目的で投入されたヨシ敷草の有無(各4反復)の実験区を設置し、水生動物および水田雑草の種組成を調査した。水生動物については敷草の有無で種組成および個体数にはっきりとした違いは認められなかったが、個体数は敷草ありで若干多い傾向がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンダーユース問題が深刻な里地里山において、放棄地管理のインセンティブが働く新たな里山システムの創造が必要とされているが、本研究成果は里山保全における新たなオプションとして、クヌギ植樹による生物多様性保全と生態系サービスの同時創出の可能性を示すことができた。水田生態系におけるヨシ敷草投入効果の検討については、予備実験では生物多様性および生産量ともに有意な効果を見出せなかったが、本実験に向けて投入量の再検討をするための材料を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
里地里山の放棄地管理の新たなオプション提案に向けて、地域の実践者らとの協働によりデータに基づいた効果検証を継続して進めていく。特に植物の機能群の観点から分析を進め、生態系機能の視点から生物多様性と生態系サービスとの関連性について明らかにしていく。 また新たな実験フィールドとして、都市近郊の里山で問題となっている管理放棄によるクズやセイタカアワダチソウによる偏向遷移がみられる斜面緑地を対象に、植生管理頻度と現存植生の関係性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定した研究計画通りに研究資金を執行したが、少額残額が生じたため次年度繰り越しとした。次年度予算と併せて現地調査旅費等として有効に活用する。
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