研究課題/領域番号 |
20K12256
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
町村 尚 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (30190383)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ツキノワグマ / 人身被害 / 事故リスク評価 / 自然要因 / 人為要因 / 将来予測 |
研究実績の概要 |
本研究は野生動物被害問題に対する地方行政の政策支援ツールの開発を本研究の目的とし、以下の課題に取り組んでいる。①東北地方におけるツキノワグマによる人身事故リスクとその要因分析、②自然的要因(個体群動態とその変動要因)、社会的要因(人口、耕作放棄など土地管理)の変化によるリスク変化予測モデル開発、③政策支援ツールとしてモデルを社会実装。 2021年度は①に関し、人身事故リスク分布の評価と要因分析、およびリスクの将来推計をおこなった。東北6県における人身事故情報(発生日と位置)を収集し、自然要因(ツキノワグマ生息域、ツキノワグマHSIおよびその構成SI、森林面積、標高など)および人為要因(市街地面積、道路密度、耕作放棄地面積など)を説明変数として、MaxENTによる事故確率推定モデルを構築した。MaxENTは野生生物種分布モデルであるが、教師データである事故情報は生物種の発見情報と同質の「在のみ」データであることから、このモデルを選択した。 ツキノワグマ大量出没と関係するブナの凶作年と平年別にモデル化すること、およびブナの豊凶パターンが類似する県をグループ化することで、モデルの再現性が向上した。平年はツキノワグマ生息域が最大要因であったが、凶作年では人為要因の重要性が高くなった。このモデルを使用し、将来予測される生息域拡大、市街地縮小、耕作放棄率上昇による事故リスク変化を予測した。 ②に関し、ツキノワグマのエージェントベース空間明示的個体群動態モデルをの改良と計算ケースの追加をおこなった。本モデルではツキノワグマHSIモデルの食物供給指数および堅果類作況によって繁殖率、産仔数、生残率を操作している。堅果類作況により個体群サイズが著しく変動し、生息域拡大速度が変化した。また人間居住域での有害獣駆除により、若い個体が減少することが再現できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題①ではMaxENTを応用した東北6県のツキノワグマ人身事故リスクマップを作成し、事故リスクに関わる自然要因および人為要因の特定とそれらの変化によるリスク変化の推計を行っている。教師データである人身事故の位置情報は重要であるが、2021年度も引き続き感染症拡大防止のための研究活動制限により、各県の関係機関を訪問しての情報収集と研究協力依頼が著しく制限された。代替として新聞記事等の二次情報を使用したが、一部地域および期間(特に東日本大震災直後)の情報の収集率が低く、手法的開発は順調であるが精度の高い結果を公表するに至っていない。 課題②については順調であり、論文としての外部発表準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、感染症によるへの社会活動の制限が緩和されることを期待し、対外的な情報収集、研究協力依頼、外部発表に注力する。 4~6月は、特に岩手県において不足している一次情報の現地調査を実施する。また課題②の成果を論文執筆(国際誌)する。 7~9月は、課題①の成果を論文執筆(国際誌・国内誌)する。 10~12月は、課題③を推進する。製作支援ツールとしてARES/k.Labへのモデル実装と、いくつかの県におけるデモンストレーションおよび有用性ヒアリングをおこなう。また課題①②の成果を、国際学会(Int. Workshop of Human-Bear Conflict)で発表する。 1~2月は課題③の成果を、国内学会で発表するとともに、最終報告書を執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究進捗の評価で説明した通り、当初計画より遅れて2021年度に研究対象地域(東北6県)の関係機関(県庁・警察本部等)を訪問してツキノワグマ人身事故リスク評価のための一次データを収集する予定であった(国内旅費)。しかし感染症拡大防止のための研究活動の制約によって、出張によるデータ収集が不可能となり、旅費の執行ができなくなった。また同時に課題①で計画していたMaxENTによる人身事故リスク推定に関わる物品費の支出、学会発表と論文投稿に伴う英文校閲や参加費等の役務費の支出ができなくなった。 このため、今年度実施できなかった関係機関における情報収集を、感染症拡大状況を見極めながら次年度に実施する(国内旅費)。また新聞記事データベースなど一次データに代わる代替情報源の探索と利用をさらに進め(その他経費)、そのためのデータ収集補助者を雇用する(謝金)。以上の情報収集に基づき、今年度発表予定であった論文を作成投稿し(その他経費)、また国内学会で成果発表する(国内旅費)。
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