本研究は野生動物被害問題に対する地方行政の政策支援ツールの開発を本研究の目的とし、以下の課題に取り組んだ。①東北地方におけるツキノワグマによる人身事故リスクとその要因分析、②自然的要因(個体群動態とその変動要因)、社会的要因(人口、耕作放棄など土地管理)の変化によるリスク変化予測、③有害獣対策による被害リスク要因変化予測。 ①および②に関し、人身事故リスク分布の評価と要因分析、およびリスクの将来推計をおこなった。東北6県における人身事故情報(発生日と位置)を収集し、自然要因(ツキノワグマ生息域、ツキノワグマHSIおよびその構成SI、森林面積、標高など)および人為要因(市街地面積、道路密度、耕作放棄地面積など)を説明変数として、MaxENTによる事故確率推定モデルを構築した。ツキノワグマ大量出没と関係するブナの凶作年と平年により傾向が異なり、またブナの豊凶パターンが類似する県をグループ化することで、モデルの再現性が向上した。平年はツキノワグマ生息域が最大要因であったが、凶作年では人為要因・特に耕作放棄地面積率の重要性が高くなった。このモデルを使用し、将来予測される生息域拡大、市街地縮小、耕作放棄率上昇による事故リスク変化を予測した。 ③に関し、ツキノワグマのエージェントベース空間明示的個体群動態モデルを開発し、有害獣対策の効果を検証した。本モデルでは、ツキノワグマHSIモデルの食物供給指数および堅果類作況に応じて繁殖率、産仔数、生残率が確率的に変化する。堅果類作況により個体群サイズが著しく変動すること、狩猟により個体数変動幅が減少することがわかった。被害対策としての人間の居住域での有害獣駆除により若い個体が減少する一方、奥山放獣によっては個体群密度が変化しないことが示された。
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