最終年度も昨年度と同様に高山帯2ヶ所、山地帯3ヶ所において夏季にマルチスペクトルドローンを用いた植生活性度の調査を行った。この生産性の観測値と比較する紅葉の色づきのデータとして、定点カメラ観測データと秋季のドローン観測データを入手し、両者の関係解析を進めた。その結果、山地帯のブナ林において植生指数が高い個体ほど黄葉の色づきが弱い負の相関が見られ、個体による乾燥などのストレス環境の違いが影響したと考えられた。このブナ林における研究内容は、2023年3月に開催された日本森林学会において発表した。 国内のライブカメラからの定点画像データの解析では、画角が同じ様に見えて微妙にずれている状況が散見され、そのズレが紅葉観測に影響していたため、その位置補正を行うプログラムの開発を進めた。衛星画像を用いた広域的なブナ林の黄葉観測については、対象領域を全国に広げた解析に展開すべく、Google Earth Engineを用いたデータの解析に着手した。 本研究により、これまで観光産業とも関連する重要な生態系サービスである紅葉の色づきと、気候などの環境要因との関係を明らかにできる基礎的な観測値の収集が行えた。また両者の関係のいくつかについて、研究内容をまとめて発表することができた。山地帯のブナ林における景観スケールの黄葉においては、衛星画像データの解析から夏以降の寒さの積算気温を用いて黄葉の色づきの季節変化を表現するモデルを構築できた。また同じくブナの個体スケールの黄葉においては、暖かい低標高域のブナ林で色づきが強い傾向がありつつも、植生指数の高い個体で色づきが弱くなる傾向が見られ、個体ごとのストレス条件の違いが影響していることが示唆された。こうした生態的・生理的な紅葉のメカニズムに迫った本研究は、将来的な気候変動による紅葉景観の変化を予測する上で重要なデータと知見を与えるものと考えられる。
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