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2020 年度 実施状況報告書

サステナビリティ・トランジション論に依拠した分散型電力システムの可否規定要因分析

研究課題

研究課題/領域番号 20K12296
研究機関富山大学

研究代表者

青木 一益  富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (60397164)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワードサステナビリティ・トランジション / MLP / ロックイン / ニッチにおける実験 / 媒介アクター / 制度化 / ニッチの保護・エンパワメント / 普及・アップスケーリング
研究実績の概要

初年度計画に則って、当該領域におけるここ10年前後の先行研究のレビューを、次年度以降予定する事例研究のための分析視座・枠組みの構築という観点の下、重点的に行った。近年のサステナビリティ・トランジション論においては、基幹的理論枠組みとしてのMLP(Multi-Level Pespective)をマクロな視座と捉え、現象のより精緻な実証的解明を可能にするよりミクロな分析概念の析出を企図した論考に顕著な進展を見る。
これを受け本研究では、蓄積を見た定性的知見から帰納的に導出された、レジームのロックイン、ニッチにおける実験、ニッチの保護・エンパワメント、媒介(intermediary)アクター、ニッチ・イノベーションの普及(diffusion)・アップスケーリング(upscaling)、レジームにおける制度化(institutionalization)に関わる諸概念の有用性を考察した。その上で本研究では、これら諸概念の操作化の可否や射程等に関する検討を通じて、今後の当該調査研究の命題や方向性が一定程度規定され得る、との理解を得た。MLPに依拠すれば、レジームとニッチの両レベル間にわたるシステム・トランジションの過程・動態を、経験的に深掘りするための道具立てが(ある程度)出揃うかのごとき研究動向といえる。また、このような研究動向の背後には、既存レジームの支配的機能(dominant function)は依然維持されており、その作用によってニッチ・イノベーションの社会実装が阻まれる傾向にある、との理解が見られる。
「分散型システムへのトランジションの可否・様態の解明」という本研究の問題関心からは、ニッチ・イノベーションとしての地域オフグリッド(例:マイクログリッド)と既存レジームとしての大規模集中型システムとの相互連関の如何に分析を加える上で、有益かつ必須となる知見を得ることができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究実施計画に則って、サステナビリティ・トランジション論の先端動向をレビューの上、次年度以降に実施を予定する事例研究に資するための検討等を行った。
その結果、提示された各種各様の分析概念は、サステナビリティ・トランジション論の持つ超学際的な性格ゆえに、多元性・多様性に富む形で提示されていることがわかった。本研究では、このような動向の背景をなす、各種の理論や学問体系(新制度論、進化経済学、政治学・政策過程論、科学技術社会論、ガバナンス論)の相違等にも鑑みつつ、当該の知見・理解(【研究実績の概要】を参照)を得ることができた。これらの点をもって、順調な進捗と評価できるのではないか。
なお、サステナビリティ・トランジション論に見るこのような学的状況に関しては、利点あるいは必然性が見出せる反面、各種概念がいわば拡散的に披瀝されていると(批判的に)捉えることも可能である。そのため、今後は、事例研究のための有意味な分析視座・枠組みの構築に向けて、この状況をいわば(再び)収縮させる--そして、さらなるより精緻な経験的・実証的考察を進めるとの観点から一連の概念を再帰的(reflexive)に定着(embed)させる--必要があると思われる。
この点に関する取り組みは、次年度へと引き継がれるものであるが、今年度研究成果からは、MLPの下、レジームの支配的機能支える各種ルール(rule-sets)の変化の如何およびそこでの過程・動態の如何との関連性において、ここでいう収縮の可否を見定めることが、サステナビリティ・トランジション論のさらなる深化・発展に寄与することになるとのheuristic(探索的)な仮説を得ることができた。

今後の研究の推進方策

研究実施計画に則り、次年度以降は、複数の地域および自治体において事例研究を実施することにより、わが国における分散型電力システム--なかでも、地域オフグリッド--の社会実装の可否を左右する要因の析出につとめる。
そこでは、地域・自治体においてニッチに萌芽・揺籃する技術的革新(ニッチ・イノベーション)が、より大きなスケールで作用する現行レジームの支配的機能をいかにして(よりサステナブルなものへと)変革・刷新し得るのかや、ニッチとレジームとの相互の関係性を切り結ぶ媒介(intermidiary)アクターがいかなる役割を果たし得るのか、といった点を問うこととなる。同時に、本研究の目的にも掲げたように、ここでの事例研究から得られる経験的な知見・理解を、今年度成果(および、次年度以降も平行して獲得する成果)に再帰的(reflexive)にフィードバックさせることにより、サステナビリティ・トランジション論と関連社会科学領域とのより有機的な架橋に貢献することを見据えた論議に着手することを目指す。
上記課題を遂行する上で問題となり得るのが、新型コロナウィルスの感染状況が原因となり、予定していた関係者に対する「対面による聞き取り(ヒアリング)調査」の実施が困難となる点である。これに関しては、インターネットを介した遠隔からの聞き取り調査を代替的に取り入れることにより、適宜対処する予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 電力システムの分散化に果たす地方自治体の役割をめぐる一考察 :サステナビリティ・トランジション論からの示唆を得つつ2020

    • 著者名/発表者名
      青木一益
    • 雑誌名

      富大経済論集

      巻: 65(3) ページ: 215-260

    • DOI

      10.15099/00020046

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] システム・トランジションに果たすローカル・レベルの役割・位置付けに関する考察:分散型電力システムへの移行をめぐるわが国の動向を素材として2020

    • 著者名/発表者名
      青木一益
    • 雑誌名

      公共政策研究

      巻: 20 ページ: 8-25

  • [学会発表] 隘路としてのアップスケーリング・権力(関係)・制度化をめぐるトランジション研究の一断面2021

    • 著者名/発表者名
      青木一益
    • 学会等名
      日立東大ラボWG3 持続可能な社会の転換に向けたトランジション研究ワークショップ
    • 招待講演

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公開日: 2021-12-27  

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