研究課題/領域番号 |
20K12314
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
松本 ますみ 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (30308564)
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研究分担者 |
佐藤 千歳 北海商科大学, 商学部, 教授 (80708743)
村上 志保 明治学院大学, キリスト教研究所, 研究員 (90526790)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 宗教中国化 / 習近平 / 愛国主義 / 愛党主義 / 民族差別禁止条項 / ネットヘイト / 教会 / モスク |
研究実績の概要 |
コロナ禍で、計画していた現地調査をすることはできなかったが、着実に研究業績を伸ばした。習近平主席のもとで2015年に始まった「宗教中国化」に関して、第一に歴史に遡って分析をした。それにより、150年以上前からの中国社会におけるイスラームの周縁化と差別、さらには名誉回復と民族差別禁止条項をもとめた国民代表大会回民代表枠獲得の頓挫、中国共産党の時代になってからの度重なる宗教への締め付けが「宗教中国化」推進の根底にあることが明らかになった。第二に、改革開放後、緩やかになったように見えた宗教への管理が再度強化されたことに関しての分析を行った。この分析を通して、中国共産党政府はキリスト教に関して、西欧的価値の影響の強さを警戒し、さらに西欧で改宗したものが中国帰国後に中国社会に影響を与えることを恐れていること、また、一帯一路の進展により、イスラーム地域と接合するも「宗教リスク論」に基づいて、宗教の影響力の拡大に恐れをいだいていることがわかった。 いずれも、無神論を国是とする中国共産党の思想が再度表出したものであり、改革開放後弛緩したようにみえる宗教管理を再度強化することによって、中国共産党による指導の正統性を再確認しようとするものである。そして、「宗教中国化」方針は、豊かになった中国社会において、規範と秩序を取り戻そうとする政府主導の道徳的キャンペーンの一環でもあり、宗教に無関心、無知であったり、信仰者を社会規範の逸脱者として見がちであったりする圧倒的多数の一般大衆の暗黙の支持を受けている。それに対して、社会の少数者たるムスリムやキリスト教信徒たちは、法令を遵守し、愛党愛国主義を標榜し、モスクや教会を守りつつも、組織やエスニシティの存続のために慈善活動を行っている、というのが実情である。また、国外の宗教勢力も中国の政治的経済的影響力の大きさのため、沈黙しているというのが実情である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現地を訪問してインタビュー調査をすることが当初の計画にあったが、コロナ禍によってここ2年間できなかったことと、最終年度も中国のゼロコロナ政策、都市ロックダウンにより、まったく現地調査に期待ができなくなったからである。さらには、本科研のテーマである宗教中国化政策の一環としての宗教への統制、特にイスラームとキリスト教に対する管理強化が、研究計画を立てた段階と比べて予測以上の速度と厳格さで進行中である。また、現地の対面調査はもちろん、SNSに対する規制と監視も強化されている。それゆえ、対面調査に代替されるべきSNSによるインタビューにも慎重にならざるをえない。それゆえ、文献研究にシフトせざるをえなくなっていることが当初の研究計画の遂行を難しくしている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も中国のゼロコロナ政策により中国現地調査はできないと思われるので、中国国内の実態に関しては引き続き文献調査を行う。ただし、研究代表者は夏にはウズベキスタンを訪問し、亡命ウイグル人や旧ソ連国家の宗教復興の実態を調査するために旅費を使う。文献調査に関しては、具体的には、中国社会科学研究院が出版している『宗教学新論』シリーズを読み解き、政府よりの無神論擁護の研究者たちの言説を分析する。さらには、中国のSNS上にあらわれる宗教ヘイト言説を読み解くことで、一般の信仰なき中国人の愛国心が、反宗教、反民族分離主義、反西欧主義、反普遍的価値観と関連していることに対して分析を加える。特に、イスラームとキリスト教に関して、次のような比較研究を行う。すなわち、イスラームに関して、宗教的エスニシティ回族がイスラーム抜きに存続しうるのか、という議論と、中国のクリスチャンが棄教しうるのか、という問題に関してである。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において、当初計画していた国外、国内出張がまったくできなくなってしまい、繰り越さざるをえなくなった。 今年度は国内主張でそれを使用する。また、海外出張も徐々に解禁されていくので、海外出張に使用する。
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