研究課題/領域番号 |
20K12316
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中西 徹 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30227839)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フィリピン / 貧困 / 肥満 / 有機農業 / プラント・ベース / ホール・フード |
研究実績の概要 |
現地調査については,コロナ禍のため,限定的なものにならざるをえなかったものの,調査対象となる方々の協力を得て,逐一調査地における社会状況についての情報をSNSにおけるチャットと写真によって得ることができた。また,一週間二度を原則として,オンライン型のインタビューをインフォーマントとその関係者との間で実施し,相応のデータを収集することはできた。しかしながら,現地における新型コロナウイルス感染症の拡がりのために,個票データの収集は断念せざるを得なかった。 以上の状況の下に,これまでの研究結果の中間報告を2度行うと同時に,「食」産業関係の方々を主たる対象とした雑誌の連載論文を通じて,現場の方々と交流ができたことは,成果の社会への還元という観点からも意義深いものであった。 その内容は,様々な社会的側面における格差拡大にたいして有機農業の発展が,不公正の是正に大きな役割を果たし得ることを論じ,今後の具体的な検証のための問題設定の確認と文献渉猟をもとに,これまでの調査結果にもとづく例証を行ったものである。すなわち,グローバル化によって貧困緩和と格差拡大が同時に進行する状況が生じ,世界レベルでの二階層社会が実現しつつある現代において,「食」の分岐もまた大きな問題である。その前提の下で,「正しい食」に関する正確な知識の普及とその実現が格差是正の鍵となることがしばしば示唆されてきた。現在,「正しい食」とは有機農産物を主体とするプラント・ベースのホール・フードであることが栄養学,医学における研究で既にあきらかにされつつある。フィリピンにおいては,それを貧困層にまで広く実現するための制度設計の試みが,民間のみならず,地方自治体においても観察され,その波及効果が期待されていることを指摘した。さらに,それが実現するに至ったメカニズムについて予備的考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍による影響は予想以上に大きかった。単に対面型現地調査ができなかっただけではなく,オンライン型調査の環境を整えても,対象者が貧困層であるため,感染の拡がりに加えて経済状況の逼迫によって,一部を除き,個別情報の収集は遅れてしまっている。 したがって,とりあえず従来のタガログ語による質的調査データの英語と日本語への翻訳・精緻化と公式データの整理が主たる業務となっている。この状況は,次年度における前半でも継続すると懸念されるが,オンライン型調査の方法については,調査者,被調査者相互の連繋を確認することができたことは本年度以降の調査の進展に資する成果であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の現状を考えると,少なくとも2021年度の前半は,対面型調査は困難である。したがって,遡及的な質的調査に重点を置き,これまでの貧困の動態についてのインタビュー調査を実施しつつ,コロナ禍がもたらした貧困層へのインパクトについて,経済面のみならず健康面と社会関係への影響に着目して,インフォーマントからできる限りの情報収集を行いたい。その結果については,2021年度末までに,雑誌『東洋文化』における論文と放送大学における書籍にまとめる予定でいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた対面型現地調査は,コロナ禍のため,実施することができなかった。文献渉猟に加え,これまでの質的調査結果のタガログ語から英語・日本語の訳を行い,公式データの整理を行った。このため,タガログ語から英語への翻訳謝金とデータ整理用のコンピュータの購入を行った。 次年度後半には,今年度実施することができず,オンライン型調査では補足できなかったデータ収集のための現地対面式調査を集中的に行う予定でいる。
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