研究課題/領域番号 |
20K12327
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研究機関 | 文教大学 |
研究代表者 |
渡邉 暁子 文教大学, 国際学部, 准教授 (70553684)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ハーフ / メスティソ / エスニシティ / 選択 / 社会関係資本 |
研究実績の概要 |
2022年度になり、海外調査が可能となったことから、文研調査のほかに、夏期および春期にフィリピンにて調査研究活動をおこなった。本年は、3つの研究課題のうち、論点IIと論点IIIについて主に調査活動をおこなった。 論点IIは「エスニシティを固定化する複数のポリティクスの働き」であり、マニラのムスリム居住地区で調査を実施した。地区を治める評議会に加え、2年前から若者による組織が結成された。そこでは、6つの民族とそれぞれの民族を代表する理事がいる評議会に対し、若者組織においては、上の世代の反省を踏まえ、むしろエスニシティによる分類をなくし、ムスリムとしての文化や共通性を重要視していこうという活動をしていた。世代による変化、あるいは活動の棲み分けと考えてもよいだろう。 論点IIIは「ムスリム多数派自治地域における「ハーフ」「メスティソ」との比較」である。南部ミンダナオのなかでも、タウスグやサマと呼ばれる人々が多く住むサンボアンガ市を調査地とした。ある親族集団を中心として、そこに、マレーシアとの間を行き来していた「ハーフ」、海外就労した先でスリランカ人の男性と結婚した母親を持つ「ハーフ」、サンボアンガ市にあるフィリピン国軍の基地に勤務していたキリスト教徒の男性を父に持つ「ハーフ」など、さまざまである。だが、比較的高学歴な親族集団の持つ海外就労志向性に対して、イスラーム学校に通うことで自らの立ち位置を確認する者や、父方の親族とのつながりを重視してキャリアを目指す者など、その集団内に留まらない者もいた。 このように、ムスリム社会のなかでも「ハーフ」や「メスティソ」と呼ばれうる人たちのなかには、フィリピン国内だけを研究の範囲とするのでは不足であり、フィリピンを超えた選択先を見据えた視座が必要であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年で遅れたというよりも、2020年から始まった新型コロナウイルスの世界的蔓延により、2年ほど海外渡航が禁止されたことにより、全体的に調査研究が後ろ倒しになったと考えたい。既知の研究協力者であればオンラインのツールを使っての聞き取りができたかもしれないが、初めて会う方であれば、オンライン・ツールではラポールの形成ができず、対面で、丁寧に説明する必要があった。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、1年間延長し、そのなかで一部研究課題を削減しながら、できることを考えている。具体的には、計画当初では調査地を5つとしていたが、それらの全てに赴くことは、ラポールの形成やエフォート率から考えても難しく、3つないしは4つに削減する方向である。最終年度は、当初、英国のケンブリッジ大学で毎年開催されるイスラーム地域研究国際会議にて研究内容を報告して学術交流をはかることを企図していたが、これも、研究計画の終了後に行うことで、本研究活動を調査活動に最大限注力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で海外渡航ができなかったことから、基本的には、1年間延長し、そのなかで一部研究課題を削減しながら、実施可能な調査を計画している。それにより、使用額には、夏期・春期の海外フィールド調査、国内の研究大会への参加といった旅費、関連書籍の購入、論文執筆と英文校閲のための業務委託費などが含まれる。
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