研究課題/領域番号 |
20K12328
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
立石 洋子 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (00633504)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ロシア / ソ連 / 記憶 / 歴史認識 / アイデンティティの政治 / 移行期正義 / 歴史教育 |
研究実績の概要 |
今年度は以下の問題の検討に取り組んだ。1)ロシアにおける政治的抑圧の犠牲者への補償、2)1917年革命100周年をめぐる議論、3)サンクト・ペテルブルクに設置されたマンネルヘイムの記念彫刻をめぐる論争、4)ソ連解体後のウクライナにおける自国史像 1)ロシアにおけるソ連時代の政治的抑圧の犠牲者に対する補償政策の変化を、情報公開と認定制度、住宅提供の制度を中心に検討した。まず前者については、名誉回復の認定制度に存在する制度上の問題と、その改善の可能性を検討した。後者については、抑圧の犠牲者の子をはじめとする家族への無償の住宅提供制度の問題点と、それを改善するための市民団体の試み、省庁や各政党の政策を検討した。 2)2017年前後のロシアで、革命100周年の記念の方法や革命後に起こった内戦の評価をめぐる議論、各地の博物館や美術館の取り組みを検討した。検討の結果、ロシアでは革命とそれに関わる人物、政治組織を善悪で判断する議論が少なくなっており、史実の多面性を強調する議論や、革命の評価をめぐる対立を1990年代の政治状況を結び付け、社会的分裂の悪化を防ぐべきだとする議論が増えていることが明らかになった。 3)2017年にサンクト・ペテルブルクに設置されたフィンランドの政治指導者マンネルヘイムの記念彫刻をめぐる論争、彫刻が取り外された経緯を検討した。分析を通じて、ロシアで歴史像を愛国主義と結び付けることはきわめて困難であること、政権によって画一的な歴史像が社会に押し付けられているとは言えないことを明らかにした。 4)1991年以降のウクライナにおける自国史像をめぐる議論、議会、政府の政策を中心に検討し、地域によって異なる歴史像が共有されていること、また歴史の評価が政治的対立に結びつけられる傾向がオレンジ革命後に強まったことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度もロシアで資料を収集することができなかったことから、研究課題を変更して関連する課題を設定し、国内で入手しうる資料をもとに論文発表と学会報告に取り組んだ。 当初は想定していなかった課題に取り組んだことは、視野を広げ、これまで認識していなかった新たな課題の重要性を知ることにつながった。これらの研究成果は、今後本来の課題の研究を進めるうえでさまざまな形で有益な影響を及ぼすと考えられる。 しかし、今年度はすでに2年目にあたり、1年目も同様に資料収集が困難であったことから、「やや遅れている」という評価に該当すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現時点ではロシアへの渡航がいつ可能になるのか不明であり、今後も渡航ができない状況が続く場合は、国内で入手可能な資料によって研究することが可能で、さらに当初の研究課題にも関連する課題を設定する。 まず、移行期正義という概念をめぐる議論の変遷を先行研究をもとに分析すること、さらにロシア・旧ソ連地域以外の諸国も含めて、様々な国家の体制転換前後の歴史教育改革を扱った先行研究をもとに、各国の体制転換と歴史教育の相互作用にどのような共通点と相違があるのかを明らかにすることが課題の一つとなる。 また研究課題を歴史教育政策に限定せず、広く国民的アイデンティティの変化という観点から、歴史教育以外の自国史認識に関わる論点を検討する。例えば、歴史認識に関わる対外政策、国籍法、旧体制による政治的抑圧の情報公開や犠牲者の名誉回復、記念碑建設、戦勝の記念式典、戦死者の捜索と記録、歴史を扱った報道や芸術作品、市民教育などに関する知識人や政治家の議論、市民団体の活動、学校の社会科教育などを検討することを予定している。 そのうえで、移行期正義という観点からロシアの政策を他国と比較し、ロシアの政策にどのような特徴があるのかを明らかにする。 次に、ロシアへの渡航が可能となった場合は、当初設定した課題である歴史教育に関する知識人や政治家、市民団体などの議論、政府の政策の変遷を検討して他国と比較することで、ロシアの特徴、ならびに他国との共通点を明らかにする。そのうえで、歴史教育が移行期正義に関わる政策においてどのような意義を持ちうるのかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料収集のためにロシアに渡航することができず、国内外の学会もすべてオンラインで実施されたために旅費を使用しなかったことから、次年度使用額が生じた。
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