研究課題/領域番号 |
20K12338
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
森 明子 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 教授 (00202359)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ケア / ネイバーフッド / ベルリン / ジェントリフィケーション |
研究実績の概要 |
本研究は、ベルリンのインナーシティのネイバーフッドを、ケアの視点から記述し分析するものである。当初の研究計画は、現地調査を中心とするものだったが、新型コロナウィルスの感染拡大のもとで現地調査が困難になったため、計画を部分的に変更している。 2年目にあたる2021年度は、次の3つの方向で研究を展開した。第一は、オンラインを介した調査地の街区にかかわる情報収集で、とくに街区に所在する市場複合体に注目し、関連する情報、資料を収集した。第二は、理論研究である。場所/空間という視座について、文化人類学、STS、地理学の学際的領域でおこなわれている議論について、その射程と可能性を中心に検討した。第三は、さまざまな研究会での意見交換である。 3つの方向から調査地街区に所在する市場複合体に焦点をあてて研究した。19世紀末に建設された市場複合体は、当時としては画期的な、国家による福祉政策を体現する「施設=制度」であった。この市場複合体はその後、二度の世界大戦、東西分断を経て再統合へと展開するベルリンの歴史のなかで、街区住民の食のインフラの一翼を担ってきた。街区をとらえるうえで外国人集住と新しい社会運動に注目することは、当初から本研究の主要なイッシューであったが、歴史をもう少し前まで遡って、19世紀末からの展開を射程に入れる必要について検討した。まとめると次のとおりである。2010年代以降の街区のネイバーフッドを、市場複合体をひとつの焦点として描くことができる。それは、街区の食のインフラという視点を導入し、その社会的な機能と経済的な機能のあり方に注目する回路をひらく。とくに、社会的機能と経済的機能が、グローバル化とジェントリフィケーションがすすむ現代世界において乖離している状況を、空間的、歴史的にとらえようとするのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染拡大のために、予定していた現地調査ができなかったことによる。現地調査に代わって、オンラインによって現地の情報を収集することにつとめた。また、これまで収集した資料の整理分析をすすめるとともに、2021年度はとくに理論的研究について問題点を洗い出して検討することに力を注いだ。国内のさまざまな研究会において研究発表し、他の研究者との意見交換を多く行った。これらによって、やや遅れがちではあるが、充実した研究ができていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
研究の基本的な方向性は、ケアの実践に注目して、文化人類学のケア研究を展開していくことで、その方向性は変わらない。研究計画は、現地調査を前提としてオンラインを駆使しながら調査データを集積していくと同時に、文献研究とデータ分析から、理論研究としての展開をはかっていくことを意図している。社会的なものの編成についての、理論的な貢献もめざすことは、当初計画から若干の軌道修正をするものである。コロナ禍のもとでも可能な調査研究の方途をさぐりながら、すすめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大によって、海外現地調査を行うことができなかったため、予算の大半を現地調査で使用する計画が大きくそこなわれた。これによって生じた次年度使用額は、次年度に計画している海外調査を、より充実して行うために使用するとともに、データ整理のアルバイトを要するので、その謝金に使用する予定である。
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備考 |
シンポジウム「不確実な時代の家族とケア」2022. 研究発表「時間をケアする」2022. "Opening remarks for Reflecting on the anthropological figure of family”2022.「EU農業政策と景観」2021.「難民割り当てというできごと」2021.「ホーフと介護の不整合」2021. 学術講演会「流動化する家族のかたち」2021
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