現地調査が難しい状況が続いたため、研究対象を新規就業者から後継者に変更して研究を遂行した。2018年の漁業センサス結果より漁業地区単位の後継者の加入状況について、1.専業経営体の割合、2.営まれている漁業種類数の平均、3.人口集積地までの車による所要時間の3要因との関連について(2項)回帰モデルを用いて検証を行った。コントロール要因として経営体当たりの平均漁獲販売額を用いるとともに、定数項及び各説明変数について海区別に異なるパラメータ値となりうる設定で推定を実行した。専業経営体の割合については、北海道及び太平洋中南部において、低い地域ほど後継者の加入状況が良好であるという結果が確認された。これに対して、日本海北区では高い地域ほど後継者の加入状況が良好であるという反対の結果が得られた。漁業種類数については、北海道と日本海北区において少ないほど、太平洋北・中区及び東シナ海区で多いほど、加入状況が良好であるというという結果となった。所要時間については、北海道日本海北区、瀬戸内海区、太平洋中区で長いほど加入状況が悪くなるという推定結果が示された。一方、東シナ海区においては、所要時間が長い地区ほど加入状況が良くなるという推定結果となっており、予想とは異なる結果になった。東シナ海区を除けば、人口集積地から離れるほど加入状況が悪くなるという結果が得られたことについて、漁業就業に伴う生活の困難さが影響していることが示唆される。これについては、職場と居住地が概ね同一となる沿岸漁業固有の問題も起因していると考えられるため、後継者の加入状況を改善するための一つの有力な方策として、居住地制約を緩くすることが考えられ、今後、更に具体的な条件等について検討していくことが必要であると考える。
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