研究実績の概要 |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、特定の国際組織からボリビアを中心とした各先住民組織へと分析対象を変更した上で、その異議申し立てとSDGsの関わりについて研究を行った。2023年度の研究で中心となった概念は、自由かつ事前の十分な情報を伴う同意 (Free, Prior, and Informed Consent: FPIC) である。前年度の研究結果を受け、本年度はボリビアでFPICの侵害が起きているとされるイシボロ・セクレ国立公園及びマディディ国立公園にテリトリーを持つ先住民組織の主張を、侵害が起きる以前の段階から追跡した。その結果、所得や教育の水準といったSDGsに親和的な目標が追求され、時にSDGsそのものに言及することもある一方、FPICが重視する適正な手続きの存在を重んじる傾向も確認された。 このことは開発目標一般を考える上で重要な示唆を持つ。SDGsは人間の福祉に関する指標化された到達点を示すものであるが、そこに至るプロセスにおける公正さに必ずしも議論の力点を置いていない。一方、社会的に厳しい立場にある集団として開発の対象とされる先住民は、結果と同時にプロセスを重視している。本研究の当初の研究対象であった先住民国際組織FILACは、FILACを構成する各国政府の開発目標に従う形で、SDGsの言説に乗った開発目標の追求を唱えてはいるが、FILACが守るべき先住民は手続きを重んじている点、両者には乖離が存在すると言える。そして、こうした問題は日本を含む世界各国の先住民と開発の問題を考える上でも重要な論点となる。 今年度の研究成果として予定されていた図書1点は来年度に出版予定である。また、本研究の知見を日本の事例に応用した研究をメキシコにて発表する機会が1件あった。
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