研究課題/領域番号 |
20K12345
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
谷川 真一 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (40410568)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 文化大革命 / 中国 / フレーム分析 / 集合的暴力 |
研究実績の概要 |
本研究は、中国文化大革命(文革)の集合行為/集合的暴力をフレーム分析の手法を用いて明らかにすることを目的としている。近年、文革研究は新たな資料・データに基づく研究の進展により、その集合行為の主な特徴である派閥抗争と集合的暴力の原因についての理解が大きく進展してきている。しかし、その研究は主に社会構造と政治プロセスに焦点を当てたものが中心であり、派閥抗争や暴力行為への動員・参加の意味づけのプロセスについてはあまり研究が進んでいない。本研究は、毛沢東をはじめとする指導者の著作・講話記録と紅衛兵・造反派組織の新聞を基に、社会運動論の「集合行為フレーム」(collective action frames)の分析概念・方法を用いることにより、文革の集合行為の認知的側面に焦点を当てる。 研究代表者はこれまでに、文革の「マスター・フレーム」としての継続革命論が陰謀論を内包していたことが、文革の集合的暴力の一因になったとの見方を提示した(谷川真一「陰謀論としての継続革命論、そして文化大革命」、石川禎浩『毛沢東に関する人文学的研究』京都大学人文科学研究所、2020年)。今回の課題では、社会運動論のフレーム分析の手法を明示的に用いて、継続革命論の陰謀論的言説が民衆レベルで内在化され、集合行為フレームとして集合的暴力を引き起こすプロセスとメカニズムを明らかにしたいと考えている。 2020年度は、主にフレーム分析の理論的・方法論的な検討と主な資料となる紅衛兵・造反組織の新聞をデジタル化(PDF化)する作業を行った。また本年度末の3月に、神戸大学現代中国研究拠点、中国現代史研究会の協力を得て、研究協力者のアンドリュー・ウォルダー氏に最新の文革研究の成果についてオンライン・セミナーを行ってもらった。海外での打ち合わせや調査が依然として行えないなか、このような取り組みには一定の意義があったと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題の初年度にあたる2020年は、パンデミックという特殊な条件のもと、国内外の出張の制限や職務上及び家庭内の負担の増加によって、当初の研究計画の再考を迫られることになった。具体的には、当初文化大革命(文革)の派閥抗争をフレーム分析の対象としていたものを、より分析範囲を絞って文革の集合的暴力を対象とすることとした。これは、前回の科研費課題(「中国文化大革命の集合的暴力に関する研究」)との連続性を確保し、その成果を活用することで、より的を縛った意義のある研究成果が得られるであろうとの判断からである。 こうしたなか、初年度に行う予定であったフレーム分析の理論的・方法論的な検討と、主な資料となる紅衛兵・造反組織の新聞をデジタル化(PDF化)する作業は、概ね予定通り行うことができた。また本年度末の3月に、神戸大学現代中国研究拠点、中国現代史研究会の協力を得て、研究協力者のアンドリュー・ウォルダー氏に最新の文革研究の成果についてオンライン・セミナーを行ってもらった。このような進展はあったものの、上述のように研究計画の修正を行なったこともあり、進捗状況を「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の2年目にあたる2021年度は、依然として研究活動への制約が続くとの見通しに立ち、現実に遂行可能な2つの課題に取り組みたい。一つは、引き続き資料(西安市の紅衛兵・造反組織が発行した新聞)のデジタル化を進め、本年度中に完成させたい。このように中国の地方都市で発行された「紅衛兵新聞」を体系的に収集し、デジタル化した例は稀で、とくに西安市の資料は管見の限り存在しないため、貴重な資料となるはずである。合わせて、今年度半ば以降、デジタル化した資料を用いたフレーム分析を開始したい。 二つ目の課題は、これまでに文革研究の成果にフレーム分析を統合するための分析枠組みの検討である。「研究実績の概要」で述べたとおり、近年文革の派閥抗争と集合的暴力についての研究は大きく進展しているが、それらは主に社会構造と政治プロセスに焦点を当てたものが中心であり、派閥抗争や集合的暴力への動員・参加の意味づけのプロセスについてはあまり研究が進んでいない。このため、本研究を進めるにあたり、従来の文革研究の成果のなかに認知的側面を位置づけるための作業として、分析枠組みの再検討を行っておきたい。この二つ目の課題は、できれば2021年度中に論文か研究ノートとして公表したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度を通じて新型コロナウィルスの影響により、予定していた国内外の出張を行えなかったため。
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