本研究は、中国文化大革命(文革)の集合行為/集合的暴力をフレーム分析の手法を用いて明らかにすることを目的とした。文革研究はこれまで社会構造と政治プロセスに焦点を当てたものが多く、派閥抗争や暴力行為への動員・参加の意味づけのプロセスについてはあまり研究が進んでいない。本研究は、毛沢東をはじめとする指導者の著作・講話記録と紅衛兵・造反派組織の新聞を基に、社会運動論の「集合行為フレーム」(collective action frames)の分析概念・方法を用いることにより、文革の集合行為の認知的側面に焦点を当てた。 2020年度は、文革の「マスター・フレーム」としての継続革命論が陰謀論を内包していたことが、文革の集合的暴力の一つの原因になったとの仮説を提示した(谷川真一「陰謀論としての継続革命論、そして文化大革命」、石川禎浩編『毛沢東に関する人文学的研究』京都大学人文科学研究所、2020年)。その上で、主にフレーム分析の理論的・方法論的な検討と主な資料となる紅衛兵・造反派の新聞をデジタル化に向けての作業を行った。 2021年度は、引き続き理論・方法論の検討と資料の作成に努めた。また、(単著)「アンドリュー・ウォルダーと文革研究の現在」(『現代中国研究』第47号、2021年10月)や(監訳)フランク・ディケーター『文化大革命ーー人民の歴史1962-1976』(人文書院、2020年)を通じて、最新の研究動向の紹介に努めた。 2022年度は、大学の業務が多忙だったため研究期間の延長を申請し、認められた。 2023年度は、6月に「文化大革命の派閥抗争とは何だったのか」(慶應義塾大学東アジア研究所講座「歴史のなかの中国社会ーー疎外と連帯」を発表し、2024年3月にはアンドリュー・G・ウォルダー著、谷川真一訳『脱線した革命ーー毛沢東時代の中国』ミネルヴァ書房(536頁)を刊行した。
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