研究課題/領域番号 |
20K12372
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
大前 慶和 鹿児島大学, 総合科学域総合教育学系, 教授 (40315388)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 大島紬 / ドメスティック・フェアトレード / 伝統的工芸品 / 流通の変革 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルス感染症の状況に鑑み、一部研究計画を微修正し、研究を進めた。2020年度の研究内容は大別して3つの視点からまとめることができる。 第1に、大島紬の生産工程そのものに関する調査・理解である。奄美大島にて調査を行い、生産工程をつぶさに観察、記録する予定であったが、離島の医療崩壊を回避するためには自発的に調査を断念する必要があった。そこで、鹿児島県工業技術センターが記録していたDVDに注目し、当該DVDを資料とした調査に切り替えた。これにより、大島紬および大島紬産業の歴史、生産工程等をおおよそ把握することができた。また、鹿児島市内の機械織工場を視察し、機械織と手織との相違についても理解を深めた。 第2に、染めと織りに関して、いくつかの産地を視察し、生産工程、流通過程、歴史、今日直面する課題とその解決に向けた取り組み等を調査した。大島紬産業との比較が目的である。主たる調査対象は、黄八丈、結城紬、西陣織、名古屋友禅、名古屋黒紋付染、近江上布、秦荘紬等であった。これらは全て伝統的工芸品ないしはそれに準じるものとして位置付けられるが、産業として直面している状況はかなり相違していることがわかった。現時点では、次の視点を持つことが伝統的工芸品を理解するために必要であると思われる。すなわち、「伝統」の定義内容そのものが人為的であり客観性をほとんど保持していないこと、産地の規模、和装の世界における着物の格、ICTを活用した直販の可能性等である。 第3に、文献調査を進めた。大島紬に関する先行研究は極めて少なく、また他の伝統的な生地・着物についても同様の状況である。しかしながら、産業・生業としての視点と保存されるべき文化財としての視点を対比することが決定的であるとの中間的結論を得るに至った。本研究は前者を重視しており、その具体的手法がドメスティック・フェアトレードの仕組みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の拡大は離島の医療崩壊リスクを増大させており、奄美大島における現地調査を困難とした。また、国立国会図書館東京本館を活用した文献調査にも制約が生じた。 一方で、感染症に最大の注意を払いながら、他産地現地調査を計画より多く実施することができた。 総合的に判断すると、調査内容にアンバランスが生じたことにより、ドメスティック・フェアトレードの仕組みそのものの研究の基盤となる研究を完了させられなかったといえる。したがって、研究の進捗はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ドメスティック・フェアトレードの仕組みを構築するにあたり、大島紬の生産に関してトレーサビリティ・システムの構築可能性を検討する予定であった。しかしながら、少なくとも奄美大島にて高齢者を中心とする職人の訪問調査をすることは不適切であることから、トレーサビリティ・システムの構築については断念することとする 2021年度から、フェアトレードに関する基礎的研究を開始する。ドメスティック・フェアトレードに結びつけていくためである。東京を中心としたヒアリング調査には限界が生じると予測するが、文献調査によって不足を補う方針とする。 なお、他産地現地調査については継続し、計画を超えてより多くの調査を実施する方針とする。特に夏季休業期間を活用し、連続的に複数産地の調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新しくコンピュータを買う方針を改め、既有のコンピュータのアップグレードを行い対応したことにより、物品費の節約を実現させた。また、文献複写の件数が予定より少なくなったことも影響した。 この繰越金は、次年度に旅費の不足が予測されることから、旅費として使用する計画とする。
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