研究課題/領域番号 |
20K12372
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
大前 慶和 鹿児島大学, 総合科学域総合教育学系, 教授 (40315388)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 伝統工芸品 / 市場の失敗 / 大島紬のジレンマ / ドメスティック・フェアトレード |
研究実績の概要 |
初年度から実施している織物・染物を中心とした伝統工芸品産地・企業の調査を数多く行った。調査対象とした伝統工芸品は以下の通りである。郡上紬、西陣織、京都錦織、京鹿の子絞、信州紬(上田紬、伊那紬)、有松・鳴海絞、いしげ結城紬、結城紬である。また、大島紬については、鹿児島市産地の調査を進めた。さらに、横浜シルク博物館、岡谷蚕糸博物館、トヨタ産業技術記念館、伝統工芸青山スクエアにて、情報収集を行った。こうした調査においては職人等のインタビュー調査を行い、大島紬に対する見解を求めることにより、大島紬産業の抱える課題を多角的に把握することができた。 こうした現地調査とともに先行研究を基礎とし、大島紬産業の抱える根本的な問題およびその解決方法を提案した。要点は以下の通りである。 大島紬の最大の特徴は、手作業の細やかさにあるといえる。機械を用いた大量生産システムが存在しない時代であれば、大島紬の細やかさは手作業によるものであると消費者は容易に想像することができた。ところが、コンピュータが浸透した現代の生活、あるいは大量生産された工業品が一般となっている今日の経済社会においては、手作業の細やかさを想像することが困難となっており、むしろ消費者の想像を超えた手作業の細やかさは大量生産品と同一視されてしまうのである。この結果、大島紬が手作業による細やかさを追求すればするほど、消費者は大島紬の価値を低く評価してしまうこととなる。本研究では、この現象を「大島紬のジレンマ」と名付け、大島紬市場の失敗の原因になっていると考えた。市場の失敗を克服するためには意味のある情報を消費者に伝える必要があり、その具体的方法としてドメスティック・フェアトレードが考えられることを明らかにした。 なお、伝統工芸品生産において利用される道具を機械と称する事例を検討し、これがさらに伝統工芸品の価値を低めていることも指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
他の研究資金も投入して現地調査を実施したことにより、計画よりも多くの情報を収集することができた。この結果、ドメスティック・フェアトレードの有効性を理論化することができた。次年度以降は、当該理論を検証するに足る現地調査を追加すれば良いと考えている。 一方で、既存のフェアトレードに関する調査はやや遅れている。次年度は調査の方向性をやや変更し、フェアトレードの問題把握等を重視した調査をすすめることとなる。 総合的に評価すると、研究に進捗は当初の計画よりもやや進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
伝統工芸品の産地調査を継続する。目的は大きく2つある。第1は、多数の産地を理解することにより、大島紬産地の特徴を客観的にとらえることである。第2は、他産地の職人が有する大島紬に対する見解を収集することである。大島紬の職人の見解と、他産地の職人の見解とを突き合わせることにより、大島紬産業の抱える諸問題が明確化できるからである。 また、当初の計画にはなかった調査として、消費者調査を実行できないかと考えているところである。本年度は、京都で開催された大島紬の販売イベントの調査を試験的に行った。消費者ニーズに合致しなければ大島紬の販売は伸びないのであって、消費者ニーズの実際を把握することは有意義である。また、新規顧客開拓の方向性を理解することにもつながると考えている。ただし、新型コロナウイルス感染症や和装業界の商習慣等、調査上の様々な制約があるため、まずは慎重な検討を行うこととする。 フェアトレードについては、その理解を深める必要がある。国立国会図書館を活用した文献調査を進めるとともに、関係者へのヒアリング調査を計画する。また、鹿児島県と伝統的工芸品産業振興協会へのヒアリング調査を実施したいと考えている。
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