日本におけるチャの伝播の窓口となった可能性のある九州北部の在来種の試料を入手し、SSRマーカーを用いて遺伝的特徴を解析した。近隣接合法による樹状図では、九州北部の系統は京都を含む在来種のグループに含まれ、上記グループ内の離れた位置に分布した。他地域の試料を追加解析したところ、多くが京都在来種グループに含まれた。また、9集団(83個体)について次世代DNAシーケンサーを利用したRAD-seqを行い、解析データを得た。 国内のチャの伝播に関する時間的指標を得る目的で、年代推定可能な試料(シーボルト作成の押葉標本)を東京都立大学およびナチュラリス生物多様性センター(オランダ)から入手した。九州北部の試料や古木については、九州由来の標本があり代用可能と考えられた。DNA抽出を行ったところ、100年以上前の試料で劣化を受け、DNAは極低濃度・極少量で分解を受けていた。通常ではPCR増幅が困難なため、増幅用酵素を検討した結果、KAPA 3G Plant PCR Kit(日本ジェネティクス)で分析が一部可能でだった。ただし、増幅産物が比較的大きい一部マーカーでは増幅が不安定だった。全ゲノム増幅キットならびにNested PCRを試みたが、供試条件では改善は認められなかった。 SSRによる分析の過程で、国内のチャ79品種の親子関係を明らかにした。具体的には、37品種(12品種の両親および25品種の片親)について、親子関係を新規に同定あるいは確認することが出来た。うち、5品種(展茗,鳳凰,するがわせ,みえ緑萌え1号,山の息吹)の花粉親はこれまで不明だったが、本研究で展茗の花粉親が宇治種由来の碾茶用品種あさひ、鳳凰,するがわせ,みえ緑萌え1号の花粉親は、ろくろう、山の息吹の花粉親は、やまとみどりであることを明らかにした。一方、在来種が親品種になったと予想される品種は供試系統中には見当たらなかった。
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