研究課題/領域番号 |
20K12382
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
生田 真人 立命館大学, 文学部, 教授 (40137021)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 拡大メコン圏 / 国境経済 / リースケーリング / 中国 / 大陸部 / 島嶼部 / 空間政策 / 都市化 |
研究実績の概要 |
本研究は具体的には、次の3つの研究課題から構成されている。すなわち、1)空間政策の用語法と概念の整理であり、2)中国・インドとアセアン共同体の関係性に関する考察であり、最後に3)東南アジアの大陸部と島嶼部との統合促進のための空間開発目標の設定である。これら3つの研究課題の内で2020年度には第1と第2の研究課題に取り組んだ。 第1課題の空間政策の用語法については、日本と東南アジアを含む諸外国では、その違いが大きいことが分かった。日本では空間政策(Spatial Policy)という用語はあまり使用されない。その大きな原因は一方では、日本の学術学会で議論がなされる際には地域政策という類似概念の用語が使用され、他方で政策を所管する国土交通省は国内向けには国土政策、対外的には空間政策と用語を使い分けるからである。 国土交通省は、旧建設省・運輸省・北海道開発庁と国土庁が統合されて2001年度に発足したが、国内向けには空間政策と同一の定義で国土政策という用語を使用した。国土交通省は国際的には空間政策を用い、国内向けには国土政策を用いている。この二重表記の影響が大きい。 第2課題については中国とインドシナ半島の諸国との関係を検討し、『拡大メコン圏の経済地理学―国境経済と空間政策―』(ミネルヴァ書房)という単著を出版した。小著の主な内容は、中国雲南省と隣接の広西壮族自治区を含む拡大メコン圏における空間政策を検討した。拡大メコン圏の中核国はタイであり、加えて中国が参加した影響が大きい。タイの国内レベルの空間政策と、それからアジア開発銀行が推進する拡大メコン圏全体の国際レベルの空間政策とを比較すると、タイが国際レベルの政策を利用しながら国内レベルの空間政策を推進していることが分かる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度には新型コロナ感染症の世界規模での拡大のために、海外渡航が不可能となった。当初予定であったベトナム・ハノイでの実態調査は、出来なかった。このため2020年度の前半には、空間政策や地域政策などの用語と概念の整理を拡充して行なった。 まず地域政策や空間政策という用語とその概念を考えるに当たって、日本の状況との関連で考えた。上記のように発足した国土交通省は、発足以来で最大の組織改革を2011年に行った。そこでは、地域関連の諸分野を国土政策局として統合した。そして日本国内では、国土交通省が発足して以降にも地域政策や空間政策という用語は全く使用されず、2011年以降も国土政策という用語のみが使用されている。しかし対外的には、国土交通省は空間政策と表現している。この用語の使い分けは不自然である。日本政府の国内の地域区分が省毎に異なる点や空間・国土という用語の使用方法などは、学術的観点からみると課題がある。 2020年度後半にはパソコンが作業途中に壊れたので、PCを購入するなどして対応し、日本のみならずアジア諸国のこれらの用語法について確認した。東南アジアの用語法は西欧などと同様であり、空間政策と空間計画とが日本の国土政策と国土計画に対応して使用されている。中国の用語法もまた東南アジアと同様である。東南アジアをインドシナ半島の大陸部とそれからマレーシア・シンガポール・インドネシア、そしてフィリピンなどの島嶼部の二つの地域に大きく分けて整理を進めた。 東南アジアの大陸部の諸国は現在、地域的に大きく再編されつつある。そして特に、ラオス・カンボジア・ミャンマーなどの諸国については中国との連携が拡大していることが分かった。ベトナムの空間政策は、かつてこの国が南・北ベトナムという二つの国に分かれていたことを反映して2地域間で大きな違いがある。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度については、島嶼部の各国の動向を詳しく検討する予定である。しかし、2021年度にも東南アジアでの十分な実態調査ができないかもしれないことを危惧している。このため2021年度には、実態調査が可能になった時には、可能になった地域に行って実態調査を進める予定である。 シンガポールあるいはタイのバンコクに行くことが出来ればよい。できれば第一候補は、シンガポールとしたい。またこれら以外の島嶼部の国で、もし調査ができるのであれば出張したい。そうした調査の目的は、主に島嶼部における各国の空間政策が、大陸部の各国とどのように異なるかを明らかにすることである。島嶼部の各国は、資本主義の国家として第二次世界大戦後に独立し、都市問題は様々にありながらも経済の成長が実現してきた。しかし、空間政策の展開という点では、各国ごとによる相違が大きいと予想している。シンガポールは都市国家であり、マレーシア、インドネシアやフィリピンは多くの島嶼に分かれており、大陸部のような一体的な空間、政策の実現は困難である。 空間政策の形成に関して、例えばインドネシアでは1997年のアジアの金融危機の発生に伴う国家再編が大きく影響した。インドネシアという東南アジアの主要国の政治そして社会変化は、東南アジア全体にとっても、大きな意味を持つ。アジアの金融危機に連動して発生した島嶼部の諸国の変化を深く考える必要がある。 またマレーシアにおける東西マレーシアの状況変化と都市化政策や空間政策の展開、さらにシンガポールを中心とする成長の三角地帯の国境を越える大都市圏の形成のような特殊な工業化と都市化の動向も詳細に把握したい。そしてタイ・マレーシア・インドネシアを含む国際協同開発とマレーシア・インドネシア・ブルネイ・フィリピンを含むカリマンタン島を中心とする国際開発も検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の世界的拡大のために、2020年度に調査予定であったベトナムへの実態調査ができなかった。2021年度には、東南アジア諸国の中で調査可能となった国について、計画を柔軟に変更しつつ出来れば調査したい。 安全な調査が不可能と判断される場合は、調査を2022年度に繰り延べることも考えたい。
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