研究課題/領域番号 |
20K12385
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
榎並 ゆかり 龍谷大学, 政策学部, 助手 (90843392)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ムリッド / 交易ディアスポラ / 交易仲介者 / セネガル / アジア・アフリカ間交易 / 広州 / 新型コロナパンデミック |
研究実績の概要 |
新型コロナによるパンデミック以前、広州はアジア最大のアフリカ系移民の拠点都市となり、アフリカ出身者が中国側とアフリカからのビジネス客との商取引の仲介者として活躍し、さらにはアフリカ向け商品企画・工場への発注、短期滞在者向けのアフリカレストランの経営などを担った。こうして中国・アフリカ間の交易仲介者として存在感を高めていたムリッド(セネガルのイスラム神秘主義集団)は、新型コロナのパンデミックという想定外の事態により、現地で差別を受け本国セネガルに帰国を余儀なくされたという。 では、2020年以降のアフリカ・中国間貿易は誰が担っているのか。筆者は、人の移動を伴わない形で貿易が継続されているのではないかという仮説を立て現地調査により検証しようと考えていたが、新型コロナによる渡航制限を受け、広州在住の邦人に調査を委託した。報告書によると、以前アフリカ出身者が中国商品を取引し活気のあった商業ビルには、現在アフリカ出身者の店舗はほとんど見当たらず、中国系商店に置き換わっているという。一方、既にアフリカ中国間交易ネットワークは構築されていたこともあり、中国人仲介者がオンラインを活用し商品の紹介をライブ配信し、参加するアフリカ側の商人たちが発注し中国からコンテナを送るという新たなオンライン取引システムが構築されているとのことであった。今や、アフリカから中国へ買い付けのための移動をしなくとも、欲しい商品を輸入することができるようになった。 筆者は、世界の工場としての中国で人件費が高騰したこと、コロナ禍で思うように工場が稼働できないこと等を考えると、より人件費が安く新型コロナの感染状況が落ち着いて経済活動を再開している地域へ買い付け先を変更するのではないかという仮説を立てた。今後の調査により検証したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナ感染症の世界的流行が終息しないまま、2021年度も終了した。前年度から研究調査はほとんど進捗していない。理由は以下の通りである。 広州における調査対象者の多くは出身国への帰国を余儀なくされており、連絡先も不明である。広州在住の日本人に調査委託したところ、広州においても2020年3月以降、アフリカ出身者の多くが帰国し動向を把握することが困難になっているということである。筆者の以前の調査では中国国内においては対象者とSNSを中心にコンタクトをしてきたが、もともと中国ではSNSに制限があり日本に帰国後は自由に調査対象者とコンタクトすることができない状況であった。さらにコロナ禍により対象者が既にセネガルに帰国してしまったと考えられ消息は不明である。 したがって現段階では筆者が直接コンタクトすることが困難である。今後、調査対象者とのつながりを再度創り出すため、セネガルでの調査からやり直さなければならない。すなわち筆者と調査対象者との関係を再構築するところから開始する必要がある。新型コロナ感染症の世界的流行が終息局面を迎えた後、調査を再開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナパンデミックの影響として新たなビジネスモデルが構築されたことにより、中国との交易における「仲介者」としての存在意義を失ったムリッドは、今後こうした状況にどう対応していくのであろうか。この問いに対する仮説として、「ムリッドは新たな交易ルートを開拓するのではないか」と筆者は考える。この仮説を検証するためには、調査対象者との関係を再構築するところから研究を再開する必要がある。したがって新型コロナの状況が終息し海外調査が可能になったら、まずはセネガルに赴き、首都ダカールの主要市場で商品の調査と問屋へのインタビュー調査を実施する。また、ムリッドの新たな動きを把握するため商店主等へのインタビュー、かつての広州在住者を探し帰国時の状況を聴き取りする。中国から本国へ帰国した後のムリッドの交易活動の実態調査から着手したい。 この調査結果をもとに、中国以外に次の渡航先候補となりそうな東南アジア諸国、南アジア諸国を対象に、アフリカ出身者の移動にかかる状況を調査するといった方法を考えている。ダカールでの市場調査により、商品の輸入先を特定しながら、交易ルートと中継都市についての現地調査を進め、ポストコロナの新たな交易ネットワークを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は海外フィールド調査を計画していたが、新型コロナ感染状況が終息しないため海外渡航が難しく、出張旅費等の支出等ができなかったため次年度に持ち越すこととなったことが大きな理由である。
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