本研究課題は、観光地への悪影響および観光者のリスクの低減に資することを念頭に、観光者の問題行為に関する研究を行うものであった。具体的には、まず、観光者の問題行為について観光者の実態に即した類型化を行い、そのうえで問題行為を誘発する観光者自身の認知特性・思考プロセス等を明らかにするために東南アジアおよび南米をフィールドとして実証的な研究を実施する計画であった。 研究実績としては、上記の計画で示した「観光者の問題行為に関する観光者の実態に即した類型化」に関する研究をすすめ、論文として発表した。そのなかで、オーバーツーリズムの諸問題について、問題の原因や行為主体の違い、観光者の認識や過失の有無などに基づく独自のタクソノミーを行った。そして、①オーバーツーリズム問題の多くはキャリング・キャパシティを“オーバー”したことで生じる問題というより、従来から存在した問題が顕在化だということ、②それらの問題のうち観光者個人の責任と言える問題は全体のごく一部であり、多くは観光地側の責任であること、③観光者の行為により発生する問題を低減するためには観光者送出国側の責任で観光者教育を行う必要があること、などを明らかにすることができた。 一方、本研究課題のうち、海外での観光者に対する聴き取り調査に基づき実施する計画であった問題行為を誘発する観光者自身の認知特性・思考プロセス等を明らかにする研究は、本研究課題がスタートした2020年から新型コロナウィルスの世界的拡大により海外渡航の制限が2年ほど続いたこと、そして2022年度に罹患した病気の影響で助成期間内に実施することが不可能となった(そのため、予算もほとんど使用していない)。この研究課題は、研究方法や視点を見直しつつ2024年度からの科研費による研究に引き継いて実施することとした。
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