研究課題/領域番号 |
20K12416
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
竹安 栄子 京都女子大学, 学長 (70131414)
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研究分担者 |
姜 紅祥 京都女子大学, 国際交流センター, 助教 (80626713)
春日 雅司 神戸学院大学, 人文学部, 名誉教授 (90152660)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Community -based Tourism / ポストコロナ / 農村観光 / 日中比較研究 / 「観光(ツーリズム)」概念 / 市民参画 / 市民と行政の協働 |
研究実績の概要 |
本研究は、急激な人口構造の変動と産業構造の転換により存続の危機に直面する日本の農山村地域と「三農」問題解決を目指す中国の農村地域を対象に、住民が主体的に参与するCommunity -based Tourism(以下、CBTと記す)により、地域社会の持続的展開を可能にする実践モデルを、南京暁荘学院大学旅游与社会管理学院の研究チームとの共同研究で構築することを目的に企画された。この目的達成のため、「市民と行政の協働によるCBTは地域社会の持続的展開を可能にするか」との問いを立て、次の4つの課題を設定した。①「観光(ツーリズム)」概念の再構築と地域社会(農村)の持続的発展に適合的なツーリズムの在り方、②地域自律型観光開発への市民参画の方式の日中比較研究、③観光開発における市民と行政との協働関係の構築、④地域社会が内包する伝統的社会秩序(親族関係/宗族)と伝統的地域基盤(集落/社)の現代的機能の解明。 申請当初の研究対象は、オーバーツーリズムへの農村観光の対応とその持続的発展であったが、初年度の新型コロナウィルス感染拡大により、研究の遂行はもとより研究対象であるツーリズムの在り方が世界的に大きく変化した。初年度、2年目と研究会を開催することも困難な状況であったが、文献研究と情報収集・整理に努め、昨年度からは制限ある中で研究会を開催して、研究全体の再構築を行った。CBTの実現モデルの構築という当初の問題意識に変更はないが、研究対象をポストコロナの時代のツーリズムの在り方に設定し、当初企画した量的調査から質的調査に変更することにした。 今年度はこれまでの研究成果に基づき、中国側との共同研究を視野に入れて調査候補地を選定し予備調査の実施した。また一時は断念しかけた南京暁荘学院大学旅游与社会管理学院の研究プロジェクトとの共同研究の実施に向けて、継続的に情報交換に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は、①住民参加型観光、②地域資源の活用の2項目を調査地選定のためのキーワードとし、南京暁荘学院大学旅游与社会管理学院の研究チームとの共同調査の実施の現実性を考慮して、まず第1段階の調査地として京都・大阪から1泊以内の距離の地域を選定した。さらに②地域資源として、歴史的町並みと地場産業の2点に着目し、兵庫県丹波篠山市、京都府宮津市・伊根町、兵庫県姫路市、兵庫県多可郡多可町を候補地として選定し、現地での予備調査を実施した。 同時にこれまで継続してきた文献研究を進展させた。従来の観光概念の整理に加えて、徐々に刊行されるようになったポストコロナの観光に関する内外研究の整理にも着手した。 丹波篠山市は城下町と地元産農産品を活用した食に加えて、主として移住者の経営による農村観光を特色としているが、行政の指導的関与は希薄であった。宮津市は日本三景の一つである天橋立を最大の観光資源とする従来型の観光で、大型宿泊施設に観光客が囲い込まれ、地域経済への波及効果が低い状況であった。また宮津市の市街地に残されている歴史的建造物や地元水産品の活用も低調であった。一方伊根町は、行政主導による地域の伝統家屋を活用した観光の成功例といえるが、住民の主体的参画については疑問が残る。姫路市は行政が積極的に姫路城以外の資源の活用と海外戦略を展開していた。多可町の観光施設であるラベンダーパーク多可を運営するNPO法人は、集落が主体となったツーリズムの事例と位置付けることが出来た。 以上の調査候補地の分析指標として、調査地の産業形態、人口構造、観光資源、自治体の観光施策、行政の観光産業への関与の度合い、住民の参画状況、観光資源の活用状況を抽出したが、仮説の構築は2024年度に予定することになった中国での現地調査を視野に入れる必要があり、2023年度に実施する中国側の研究協力者との協議を通して構築する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、共同研究の相手方である中国南京暁荘学院大学旅游与社会管理学院の研究チームを迎え、昨年度選定した候補地のうち、京都府宮津市・伊根町、兵庫県姫路市、兵庫県多可郡多可町で、特に自治体の観光部署の担当者、観光業者、住民などにインタビュー調査を実施する予定である。また京都女子大学で研究者や学生・留学生を対象としたシンポジウムを開催して、本研究についての評価を受けるとともに、日本における農村観光についての問題提起をする予定である。また中国の農村観光の実態についても知見を広める機会を提供する。さらに今後の研究遂行の課題整理に関して意見交換の場を設ける予定である。 2023年度は研究期間延長の1年目であるが、さらにもう1年延長し、2024年度に成果を取りまとめる予定である。また2024年には中国での調査の実施を計画している。調査対象地については2023年度に実施した日本側の調査を踏まえて中国側研究チームと協議する予定である。 さらに最終成果の公表として、日本と中国の両国での出版を企画している。この点についてはすでに大筋において中国チームと合意が形成されているが、今後、全体構成の検討、章分担、執筆要項等詳細を詰めていく必要がある。また日本語・中国語への翻訳についても具体的な分担を協議する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究が採択された初年度から新型コロナウィルス感染拡大のため研究遂行が事実上全くできない状況が2年間続いた。3年目の2023年にようやく国内での実地調査が実行可能となったが、当初の計画にあった南京暁荘学院大学旅游与社会管理学院の研究チームとの共同研究の見通しが2022年度末まで立たなかったため、研究の進展が遅延した。 また申請時点では、オーバーツーリズムへの対応に問題の焦点を当てた研究計画を設計していたが、新型コロナウィルス感染拡大後、問題関心の中核のオーバーツーリズムの状況が大きく変化し、研究の問題関心から根本的に研究計画の再構築を迫られることになった。 以上の理由により、アフターコロナのツーリズムの状況がようやく観測できるようになってきた2023年度から本格的研究を実施できる環境になったので、次年度使用額が生じた。
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