本研究は、観光計画論・観光資源保全論の立場から、自然公園等の歩道に活かし得る歴史的参詣道の特性を捉えることをねらいとして、霊山・霊場などの信仰空間へ到達する、あるいはそれら相互を繋ぐ歴史的参詣道を対象に、その立地環境と周辺の自然環境との視覚的繋がり(可視性)を指標とした景観特性を明らかにし、その資源性を自然歩道のネットワーク計画に活用する検討を行うことを目的とした。 調査対象は、一つの霊場に歩いて到達し戻る形態(往復型)と、複数の霊場を巡る形態(回遊型)を想定し、前者の事例としては大山阿夫利神社(神奈川県)への大山道(藤沢起点)、秋葉神社(静岡県)への秋葉道(浜松起点)の2例、後者の事例としては四国遍路道のうち山岳部を通る12番焼山寺、20番鶴林寺-21番太龍寺、60番横峰寺の各前後を含む3区間の、計5例を選定した。各参詣道の原ルートを地形図上で同定し、各ルート上からの周辺への可視性を、参詣路から見渡す対象による意味の違いを考慮して、山稜/平地/海域それぞれへの可視性の3類型に分け、基盤地図情報の数値地図から可視空間量を求め、その変化をシークエンス景観として捉えた。その際に体験される景観と体験者の身体性の関わりとして、登山による身体的負荷との関係に着目し、両者の変化の関係を時系列分析の手法を参考に検討し、一部は現地調査により確認、検証した。 その結果、各参詣道上からの可視性は、各目的地である霊場近傍で極大かつ概ね最大に達すること、さらに身体的負荷はその手前(概ね数百m程度)において極大に達し、負荷が低下する状況で可視性の極大値が訪れるラグが存在すること等が確認され、参詣の体験を特徴づける原理の一側面として考察された。可視性と身体的負荷は地形から予測可能であるため、両者の継起的関係をこうした事例に学び調節することが計画論的にも有効であることが示唆された。
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