研究課題/領域番号 |
20K12447
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
室岡 祐司 九州産業大学, 地域共創学部, 准教授 (50615359)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 旅行業 / 持続可能性 / 競争優位性 / 人的サービス / 旅行者行動 / 旅行者意識 / 旅行相談料 / リーン消費 |
研究実績の概要 |
初年度は主に旅行会社の人的サービスの優位性を考察するために、①旅行会社利用に関する実態・意識調査、②旅行会社へのヒアリング調査、③先行研究の整理を行った。 ①の旅行会社利用調査は、webアンケート調査を用い、過去3年間の個人プライベート旅行における旅行会社の店舗orコールセンターor遠隔接客販売(ビデオ通話等)利用した者と、これらに加えて、旅行会社のインターネット予約を利用した者を対象に、利用実態と意識を調査した(300サンプル)。結果、利用理由の上位は、「手間が省ける」、「間違いないと思った」、「自分で手配するよりも安い」、「いつも利用してる会社」と、利便性、安心感、価格の魅力であることがわかった。さらに、利用理由と手配した旅行商品をクロス集計・コレスポンデンス分析した結果、海外パッケージ旅行(観光・食事付)は、「旅行先のトラブル対応で安心」、「不慣れな土地だった」、「添乗員付きの旅行」等、主に旅行先での安心感と関連が高かった。一方で、同じ海外旅行でも、フリープラン(観光・食事なし・自由旅行)に関しては、「旅行会社スタッフに相談したかった」、「インターネット予約は不安」、「利用した旅行会社の評判がよかった」等、主に旅行計画段階での安心感と関連が高い傾向が窺えた。 ②の旅行会社調査は、一部店舗で旅行相談料金収受の実証実験を行った㈱JTBと、中小旅行会社の視点から鹿児島県旅行業協同組合へヒアリングを行い、人的サービスの有料化の課題や、密着営業による顧客維持に努めている状況が窺えた。また、日本旅行業協会九州支部へGo To トラベル事業推進の現状についてヒアリングを行い、整理した課題を学会発表した。 ③の先行研究は、リーン消費への対応に着目し、新たな需要創造・競争優位を生み出すリーン化の4つの方向性(恩蔵2007)を参考に、旅行会社の人的サービスの現状と方向性を整理・考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査実施面においては、コロナ禍において、旅行会社に対するヒアリング調査が限定された側面はあるが、調査内容としては、当初の計画に沿って、旅行会社利用に関するwebアンケート調査や、旅行相談料収受の発表によって業界内外から注目された㈱JTB、そして、Go To トラベル事業の事務局として対応する日本旅行業協会(JATA)等へヒアリング調査を行うことができたことによる。 研究成果面においては、旅行業の人的サービス優位性の観点から、旅行方面や年代等によって、旅行者があえて旅行会社の人的サービスを利用している実態が見えてきたこと、旅行会社側も、経営規模・資源によって、インターネット(オンライン)と人的サービスを融合させたより高い旅行経験提供によって競争優位性を高める経営努力を進めている点が見えてきたことによる。また、旅行業のネットワーク・機能活用の優位性については、Go To トラベル事業の仕組み・特徴について、「九州ふっこう割」との比較研究から考察できた点や政策課題を発表できたことによる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、旅行業経営の持続的な成長・発展の理論構築へ向けた手掛かりを掴むために、①人的サービスの優位性、②商品力の優位性、③ネットワーク・機能活用の優位性の観点から研究を進める。 ①は、デジタルとリアルの融合の観点から、新たに導入されているビデオ遠隔通話による人的サービスの現状・課題に着目する。引き続き、㈱JTBの動向に留意しながら、一方で、中小旅行会社の経営状況・優位性の現状や課題についても着目する。 ②は、旅行商品の「模倣困難性」と旅行満足度、事業収益を高めるプロセスを明らかにするために、旅行会社へヒアリング調査を行う。具体的には、差別化の高い商品・サービスを実現したJTBハワイの取り組みに着目する。また、模倣困難性の高い旅行商品の検討素材として活用するために、消費者に対して「一番印象に残っている旅行」をテーマにヒアリング調査を試みる。 ③は、引き続きGo To トラベル事業の動向を観察した上で、事業評価と今後の政策課題を考察する。検討においては、ソーシャル・ツーリズムの観点も視野に入れ、単なる災害・人災発生時の旅行費割引による需要喚起に留まらず、企業の休暇制度や福利厚生制度との兼ね合いを検討し、平時からの旅行需要喚起による経済活動拡大へ昇華させる可能性や、そのあり方について考察を進める。 今年度もコロナ禍の影響があり、国内外のヒアリング調査・実踏調査に影響が考えられるが、遠隔調査の活用も取り入れ、前年度研究の成果の深耕と当初計画に沿った研究を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって、旅行会社のヒアリング調査のための出張が出来ず、旅費や謝金が減少した。また、日本観光研究学会全国大会での論文・研究発表もオンライン対応となり、その旅費も減少した。次年度もコロナ禍が収まらず、出張調査ヒアリングを当初の計画通り進められない可能性があるが、その際は、遠隔ヒアリング調査や、webアンケート調査への切り替え、もしくは最終年度(2022年度)へ出張関連費の一部を残す可能性がある。いずれにしても、計画を意識しながら、効果的な研究費の支出を行う。
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