研究課題/領域番号 |
20K12450
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研究機関 | 山梨県富士山科学研究所 |
研究代表者 |
宇野 忠 山梨県富士山科学研究所, その他部局等, 主幹研究員 (80342963)
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研究分担者 |
堀内 雅弘 鹿屋体育大学, スポーツ生命科学系, 教授 (50310115)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 登山者の転倒状況 / 登山者の転倒関連要因 / 登山ルート別の転倒状況 |
研究実績の概要 |
これまで、富士登山者の転倒について山梨県の登山道吉田ルートにてアンケート調査を行い報告している。令和4年度は、富士宮ルートにおいて同様な転倒に関する調査を実施し、富士宮ルートを利用する登山者の転倒実態の把握を行った。 アンケート内容は転倒の発生状況に関する項目と転倒に関与が考えれる項目として年齢、性別等の一般属性、宿泊やガイド同行の有無などの登山形態、靴やストックなど登山装備について、登山道に関する事前情報、疲労度を設問として設け、得られた回答を用い転倒の発生状況の把握と関連要因を検討した。 富士宮ルートにて転倒した者は有効回答357人中212人(転倒者率59%)と2021年の吉田ルート調査での41%と比較し、有意に高い転倒者率であることが明らかとなった。転倒時の状況として、両ルートとも下り中の発生が80%以上、スリップによる転倒が約60%、転倒に伴うケガは擦り傷切り傷が多い状況であったが、ケガの発生者率は吉田ルート6%に対し富士宮ルートは10%と高い傾向にあった。 転倒関連要因を明らかとするために、転倒の有無を目的変数とし転倒関連項目を説明変数とした二項ロジスティック回帰分析において、変数減少ステップワイズ法によりAICが最小となるモデル選択を行い転倒関連要因の抽出とルート別での交互作用を検討した。両ルート共通で抽出された転倒リスクが高い条件は、女性、年齢が高い、ガイド同行、登山道の距離情報を事前に知らない、ストック未使用、登山靴以外、靴底が減っている場合の7要因であった。吉田ルートでは富士登山未経験と疲労度が高いことが転倒リスクに関係していたが、富士宮ルートでは富士登山経験の有無にかかわらず、疲労度が高くても低くても転倒リスクが高かった。以上の結果から、富士登山において富士宮ルートは、吉田ルートに対し多くの転倒が発生しており、転倒関連要因も異なる可能性が考えらえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、富士登山者の転倒状況を登山ルート別および日本人と外国人を比較することによりそれぞれの対象者に対し有効な転倒予防軽減の対策につながるデータの提供を目的としている。そのための研究方法は登山者を対象とした大規模アンケート調査の実施である。しかし、本課題が開始された令和2年度から令和4年度まで新型コロナウィルスの感染拡大の影響により大幅な富士登山者および海外渡航者の減少により大規模アンケート調査の実施が困難な状況が続いている。令和4年度は、山小屋や登山中の新型コロナウィルス感染拡大への対応を実施した上での行動制限のない富士登山となったが、登山者は、コロナ以前の平成30年度の約23万人に対し、約16万人と70%にとどまった。加えて、海外からの渡航に制限が設けられており、外国人旅行者が富士登山に訪れる可能性が少ない状況であった。 そのため、富士宮口ルートの日本人登山者に対象を絞り、アンケート調査を実施し、日本人登山者における登山ルートの違いによる転倒状況、関連要因の比較への注力をおこなった。しかし、吉田ルートと比較し少ない登山者数の富士宮ルートでのアンケート調査は、コロナの影響もありサンプル数がアンケート実施日数を増やしたにもかかわらず十分な数とは言えない状況となった。今後は、富士宮ルートでの日本人登山者のサンプル数の補填および吉田ルートでの外国人旅行者の調査を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで新型コロナウィルス感染の影響により令和2年度は富士山登下山道の通行止め、令和3年度は登山者激減、外国人旅行者が見込めない状況であった。令和4年度は、日本人登山者は行動制限のない登山が可能となり、日本人登山者数の一定の回復が見られたことで富士宮ルートでの日本人対象の調査を実施できた。しかし、富士宮ルートでのサンプル数は十分な量とは言えず、令和5年度は富士宮ルートのサンプル数の補填を行い、ルート別による登山者の転倒状況の比較結果をまとめる。 外国人旅行者においては、観光目的の渡航が再開され、富士登山に多くの外国人が訪れることが期待できることから、吉田ルートにおいて外国人旅行者を対象としたアンケート調査を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大対策により研究対象である富士登山者の減少、外国人旅行者の入国制限から当初予定していた外国人旅行者を対象とした調査の実施が出来なかった。このとこから、アンケート実施における物品購入、アンケート調査員(外国語対応含む)の雇用およびデータ入力員の人件費、データ解析用PCの購入を行わなかった。また、海外含め学会の開催がオンライン主体となり当初予定した海外学会への現地参加などが取りやめとなり旅費の使用がされなかった。令和5年度以降、外国人富士登山登山者も増加することが予測されることから調査日数、調査員、データ入力員を増やし実施することで使用する計画である。学会の開催についても現地での開催、またはオンラインとのハイブリッド開催へと移行してきており、積極的な学会や勉強会、研究打ち合わせを現地にて行っていく予定である。
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