最終年度にあたる2023年度には 1)韓国の性売買経験当事者ネットワーク・ムンチの著作を監修・出版しそのメンバーを招聘して東京で研究集会とフィールドワークの実施、2)韓国・済州島へのキーセン観光の調査、3)植民地公娼制に関するセミナーを開催した。具体的には、1)2023年7月、性売買経験当事者ネットワーク・ムンチが自らの経験を語った『無限発話』を監修・出版したことに伴い、これを記念して同メンバーを韓国から招聘して、東京で研究集会を開催した。さらにワークショップを開催するとともに、東京や大阪の歓楽街をまわる踏査を行った。2)2024年1月に韓国・済州島への現地調査を行った。済州島は1980年代からキーセン買春観光が行われた地域であり、地元の女性団体と関係者に当時と現在の状況についてインタビューするとともに、現場となった一帯を踏査した。3)4年間の共同研究の締めくくりとして、次の2つのセミナーを開催した。同年2月、植民地公娼制研究を再検討する書評セミナーを開催し、熊野功英氏(一橋大学院生)と人見佐知子氏(近畿大学)が報告し、全体討論を行なった。さらに同年3月、遊廓社会科研(代表:佐賀朝氏)と共催で、本科研の総括セミナーを開き、本科研から加藤圭木氏(一橋大学)が朝鮮各地の植民地都市の性買売と財政との関係を扱った「植民地期朝鮮の地方財政と性買売」を報告し、佐賀氏(同前)、人見氏(同前)がコメントしたうえで、全体討論を行った。 以上のように、現代韓国の性売買に関し著作の監修・出版、メンバーを招聘した研究集会や共同踏査の実施により当事者の性売買経験を直接共有し、さらに1980年代キーセン観光に関し済州市の現地調査と関係者へのインタビューを行って実態を調査するとともに、植民地公娼制研究に関して書評セミナーと総括セミナーを行うことで、4年間の共同研究の成果と課題をまとめることができた。
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