最終年度となる2022年度も、引き続きコロナ禍中のため、海外での資料調査や聞き取り活動は差し控えざるを得なかった。一方、国内においては、コロナ禍以来、久しぶりに対面も含めた学会報告(招聘講演)で、参加者からの反応をじかに受け取ることができた。具体的には、研究の成果を反映し刊行した単著『女教師たちの世界一周』(2022)をもとにした「イギリス女性史研究会」での研究報告、とりわけ、ジャマイカでの資料収集や聞き取りをもとに拙著の最終章で展開した「ウィンドラッシュの娘たち」の経験について、多くの好意的反応が得られたことが最大の収穫となった。 最終年度のもう一つの成果については、学術論文1本の執筆がある。前年度末に科研費補助で購入することができた、西インド、カリブ海地域唯一の学術雑誌である季刊誌、『カリビアン・クオータリー』(西インド大学文学部編集)の、1949年発刊から数年分を熟読し、これまで収集した論文や著作を参考に、「ウィンドラッシュの娘たち」の故郷である旧英領西インド植民地における「我々の歴史創造」への困難な道のりの一端を、論文として発表することができた。執筆を通して、英領下のジャマイカに、「ロンドン大学海外分校」として設立された後の西インド大学創設メンバーたちの、『カリビアン・クオータリー』刊行に込めた「学術の独立」と「文化の独立」の志が確認できた。また、そのことで、多くがイギリス育ちである「ウィンドラッシュの娘たち」が、彼女たちの存在のルーツを誇り高く実感していった過程も、改めて明確になった。 既述のように、もう一つの成果である「イギリス女性史研究会」での招聘講演は、イギリスの「白人女性史」が中心であった同研究会の数十年に及ぶ研究蓄積とその発信の歩みに、小さいが新たな一コマを提供できたのではないかと思う。
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