研究課題/領域番号 |
20K12463
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研究機関 | 福岡県立大学 |
研究代表者 |
佐野 麻由子 福岡県立大学, 人間社会学部, 教授 (00585416)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 男児選好 / 階層関係 / 社会的地位の上昇志向 / 家族規範 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、文化的進化論を批判的に援用し、出生時性比の偏重が顕在化しているネパールの主要3都市とその周辺地域での聞き取り調査および質問紙調査を通して、階層関係と男児選好、家族規範との関係を分析し、男児選好の構造的要因について明らかにすることとした。 今年度は、9月10日~22日および3月19~30日に(1)7地域で質問紙の配布および回収、分析、(2)聞き取り調査を実施した。質問紙調査では、確率比例抽出法で無作為抽出を行い調査地・対象者を選定し、調査当時18歳以上80歳未満の女性855人から回答を得た。 分析では、先行研究より、目的変数を男児選好度、男児の必要性、男児を産むプレッシャー、性別判定とし、説明変数を階層自認、社会的地位の上昇志向、世帯所得、家族規範の支持の度合い、相対的剥奪感、社会に対する諦念とした。分析の結果、(1)男児選好度は、低層階層、社会的地位の上昇志向の低い人、世帯所得が低い人において相対的に高い点、(2)男児の必要性については、低層階層において相対的に強く認識されている点、(3)男児を産むプレッシャーについては、低層階層、平均的な世帯よりも生活水準が低いと感じている人において強く認識され、逆に、世帯の生活水準を改善する機会に恵まれていると感じている人においては弱い点、(4)性別判定については、結婚、子どもをもつことを必須と考える家族規範が強い人において実施される傾向にある点、(3)性別判定後の中絶については、家族規範のうち結婚は必須だと考える人において実施される傾向にある点がわかった。当初、社会的上昇志向が高い人ほど、結婚、子どもをもつことを必須とする家族規範が弱く、女性のキャリア形成を重視すると仮定したが、その逆の結果が出た。以上の結果を踏まえ、引き続き、階層関係と社会的上昇志向、家族規範、男児選好との関係について分析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍により現地調査が遅延していたが、今年度、入国措置が緩和され、現地調査を実施することができた。また、現地調査協力者の支援もあり、年度内に分析に着手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
分析においては、当初、社会的地位の上昇志向が高い人ほど、結婚、子どもをもつことを必須とする家族規範が弱く、女性のキャリア形成を重視するため、子どもの性別に拘りがない(男児選好が薄い)と仮定したが、その逆の結果が出た。つまり、競争はよいという競争主義、成功はコネクションよりも勤勉さによってもたらされるという業績主義、思い通りの人生の選択ができているという全能感と結婚や子どもを持つことを必須と考える家族規範の遵守とは、必ずしも対立していないことがわかった。また、社会的地位の上昇志向が高い人は、世帯経済が変化していない人よりも世帯の経済状況が悪化した人および世帯の経済状況が改善した人の2グループに多くみられることがわかった。これらの知見を踏まえ、さらなる分析を行う。 分析の結果については、9月1日~3日にネパールのポカラで実施予定のNepal Sociological AssociationのInternational conference on good governance and social transformation in Nepal、および、同会発行の学会誌で報告される予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、計画していた現地調査や研究発表を実施することができなかったため、当初使用予定だった渡航費等において残額が生じた。今年度は、現地調査の継続と9月の学会発表の際の旅費等に使用する予定である。
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