本研究は、①日本における女性警察官の起源とは?②女性警察官は、どのように発展してきたのか?③女性警察官は、どのようなイメージをまとってきたのか?の三点を問いの柱とした。 まず①と②の調査と検討を通じ、女性警察官の歴史を通史的に明らかにした。その結果、時代ごとに大きく異なる警察の女性活用のあり方が、社会的危機状況と相関関係にあったことが判明した。戦中期における日本軍支配地域の治安問題、占領期における戦争孤児問題、高度経済成長期における交通インフラ整備の遅れと交通弱者問題、少子高齢化時代における人材不足問題等である。 ③に関する調査では、行政広報や大衆文化を通じて、先進諸国では類を見ない「母性的な警察官」イメージが喧伝され、それによって危機の本質が隠蔽され、事態の根本的な解決を阻害してきた可能性が浮上してきた。また1950年代に警視庁音楽隊が在日米軍関係者からバトントワリング技術を学び、さらに女性警察官トワラーを通じて全国の女子生徒たちに伝授されたこと、各地の女子トワラーたちの「健康なお色気」イメージが、東京オリンピック前後に流行した市区町村パレードを介して国民再統合へ結びついていったというダイナミックな流れを可視化した。 当初予定していた各地の「婦警第1号」たちへのインタビューはCOVID19パンデミックにより見送らざるをえなかった。このため最終年度では、地域女性史関連書籍、特に自治体がまとめた聞書き記録を渉猟し、事例収集に努めた。現在、軍政下の沖縄のケース、戦災孤児が集結した熱海のケース、退職後の孤児保護施設を自ら創設し県議会議員として児童行政を推進した茨城県のケースなど、パイオニアたちのユニークな活動を発掘中である。さらに最終年度においては、60~70年代からの世界的な女性差別撤廃の動きが日本に与えた影響について検討し、その成果を国際会議にて報告した。
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