研究課題/領域番号 |
20K12478
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
横田 伸子 関西学院大学, 社会学部, 教授 (60274148)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 韓国の周辺部女性労働運動 / 韓国の周辺部女性労働市場 / 女性非正規労働者 / 特殊雇用労働者 / 文在寅政権の労働改革 / ジェンダーの視点 / 超短時間パートタイム労働者 |
研究実績の概要 |
韓国の労働研究では、労働運動の主体や労働市場の中心部は男性正規労働者によって担われていると認識されてきた。これに対し、女性労働者は、非正規労働者や「労働者性」が否定された「特殊雇用労働者」として労働市場の「周辺部」に位置し、男性正社員による企業別労働組合運動主流の韓国にあって組織化が困難な周辺部労働者として捉えられてきた。とくに、韓国社会が民主化され、民主労働運動が民主化運動の一翼を担った1980~90年代には、女性労働運動は重要な役割を担ったにもかかわらず、ジェンダーの視点から当時の労働運動や労働市場構造について考察した研究は稀少である。そこで、本研究は、80~90年代の周辺部女性労働運動や労働市場について考察し、それが98年の経済危機以降とどのような関連を持ったのかについて分析する。 2020年度は、韓国で調査研究を行い、当時の女性労働者の手記やルポ等も含む文献資料を渉猟するとともに、当時の労働運動のリーダーや組合員、労働者にインタビュー調査を実施する予定であった。しかし、1年以上続くコロナ禍のため、海外渡航が禁止され海外調査研究は諦めざるを得なかった。 そこで、2017年に「労働尊重」を公約に発足した文在寅政権の労働改革をジェンダーの視点から分析し、労働市場の最周辺部に位置する女性非正規労働者の労働基本権や社会権の確立にどれだけ寄与したかについて検討した。その結果、労働法や社会保障制度の保護から排除された「特殊雇用労働者」が多くを占めるケアワーカーや、女性が多数を占める「超短時間パートタイム労働者」にはその恩恵がほとんど行き渡っていないことを実証的に明らかにした。この内容を、韓国のフェミニスト研究者、尹子英、鄭成美、黄晶美とともに企画編集して、『大原社会問題研究所雑誌』749号(2021年3月号)に、【特集】韓国における労働改革とジェンダーとして掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本来なら、2020年度は、韓国(ソウル、インチョン、プサン)でフィールド調査を行い、研究文献だけでなく、1980~90年代の女性労働者の手記やルポ、労働組合や研究機関等による実態調査といった文献資料を渉猟することになっていた。この調査によって、当時の労働運動のリーダーや労働組合員、労働者(繊維産業労働者や家事労働者)にインタビュー調査及び設問調査を実施する予定であった。また、この調査にあたり、韓国女性労働者会と全国女性労働組合、韓国家庭管理士協会、韓国労働社会問題研究所と連携し、インタビュー調査を行う相手にも了承をもらい、設問調査の大体の内容まで合意ができていた。さらに、この研究課題に必要な文献がどこに所蔵されているかの見当もついており、相手とのアポイントメントも取れていた。しかし、1年以上続くコロナ禍のため、海外渡航が一切かなわず、2020年度の研究のかなめであった海外調査研究は諦めざるを得なかった。 海外調査が一切できなかったので、その代わりに、韓国のフェミニスト研究者(社会学、経済学)とonlineで研究会を3回開催し、現在の文在寅政権の労働改革と女性労働政策についての議論を行い、ジェンダーの視点から見た文在寅政権の労働改革に対する評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では、日本におけるコロナ禍終息の目途が全く立たないため、2021年度は、韓国に渡航して海外フィールド調査を行えなくなる可能性が高い。 そこで、2021年度の研究は、1980年代から90年代の韓国の女性労働者の手記やルポ、労働組合や研究機関等による実態調査の収集とその分析を中心に行う。とくに、これらの文献資料が多く所蔵されている韓国国会図書館、韓国国立中央図書館、韓国労働研究院資料室、梨花女子大学校図書館などを中心にonlineで資料を検索し、収集することとする。 また、研究代表者本人が韓国に渡航できない可能性が高いことから、1980年代から90年代に韓国の女性労働運動をリードした活動家や、労働組合員、労働者に対する設問調査を韓国女性労働者会に委託して承諾は得た。しかし、韓国もまた、コロナ禍が収束しているわけではないので、設問調査自体が実施できなくなる可能性も否定できない。その場合は、当時の主たる活動家にonlineでインタビューを行い、翌年のより規模の大きい細密な調査の予備調査としたい。 これらの中間的なまとめとして、1980年代から現在に連なる韓国の女性労働運動と日本のそれを比較する国際シンポジウムのonline開催を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による海外渡航禁止により、当初予定していた、韓国における海外フィールド調査(インタビュー調査、文献資料調査、設問調査)が一切できなくなったため次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、onlineによる、文献調査と委託設問調査及びインタビュー調査、国際学術シンポジウム開催のための費用に充てる予定である。
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