2020年から22年までは、コロナ感染拡大のため当初予定されていた1980年から90年代に活動した韓国の女性労働運動活動家や労働組合、この分野の研究者へのインタビューはできなかった。そこで、22年中に使用する予定だった助成金を23年度に繰り越しフィールド調査を実施した。 研究代表者は、2023年度に1年間オーストラリア国立大学(ANU)の韓国学研究所で在外研究を行い、オーストラリアの地域コミュニティ運動や社会運動ユニオニズムとの比較の視点から、韓国の周辺部女性労働運動についての研究を行った。とくに、ホスト教授であるルース・バラクロウ教授は、1920年代から90年代の韓国の女性工場労働者に関する文学・歴史研究の第一人者である。バラクロウ教授との研究交流を通じて、女性工場労働者(女工)が描いた文学世界から彼女達の情念、生活、文化を歴史的に浮かび上がらせる視座を獲得した。加えて、24年1月に韓国を代表する女工小説家 張南秀氏に対する数度のインタビューを通して、1980~90年代の韓国女工のより具体的な生活や労働、階級意識や女性差別の実態を見出した。 また、23年7月に韓国女性労働者会代表ペジンギョン氏、全国女性労働組合委員長チェスンニム氏、九老生活自活センター院長ユンヘヨン氏にインタビューをし、韓国の周辺部女性労働者の典型である女性超短時間労働者の組織化や特性を浮き彫りにした。そして、韓国統計庁『経済活動人口付加調査』の原資料分析を通してそれを統計的に裏付けた。 コミュニティユニオンや社会運動ユニオニズムが強力なオーストラリアの労働運動と韓国・日本の労働運動・労使関係との比較分析もANU教職員組合を対象に行った。その結果、ANU労組の地域との緊密な関係、社会的課題解決に向けた学生や市民との連帯、非正規・正規労働者の統一労働組合組織など東アジアとは対照的な特性が明らかになった。
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