研究課題/領域番号 |
20K12479
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
荻原 桂子 岡山理科大学, 教育学部, 教授 (80299403)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジェンダー / 田村俊子 / 関露 / 戦時上海 / 『女声』 / 『大陸新報』 / 言語行為 / 日中文化交流 |
研究実績の概要 |
中国人の女性作家張愛玲は太平洋戦争勃発のため香港陥落後1942年上海に戻り、旺盛な文学活動を展開する。同時期上海で発行されたていた邦字紙『大陸新報』には、俊子と久保田万次郎の対談が掲載され、張愛玲の作品「燼余録」が、日本人室伏クララの翻訳で掲載されている。文学を中心とした戦時上海における『女声』をめぐる言語空間をジェンダー・システムの可変性を『大陸新報』の複写から研究した。 戦時上海には日本人が約10万人居留し邦字紙『大陸新報』(1939年1月1日~1945年9月10日)が刊行されていた。『大陸新報』とは1939年1月1日、対日協力政権であった中華民国維新政府下にあった上海で大陸新報社から刊行された日刊新聞である。1940年3月末に成立した汪精衛政権下で発行は継続され、終戦後の1945年9月10日まで続いた。華中を中心とした日本軍占領下の中国の政治、経済、戦況、時事、さらには文学・文化・芸術の動向、社会事情などを知る上で、この新聞は当時の日中両国文化界の交流状況を考えるとき、基礎資料として重要である。1943年2月に『上海毎日新聞』も併合され、『大陸新報』は「中支唯一の国策新聞」となった。同紙には、張愛玲「香港―焼け跡の街」(室伏クララ訳)が連載されている。中国人女性作家張愛玲が上海在住の日本人の間で相当数の愛読者を得ていたことがわかる。戦後は『赤地の恋』(柏謙作訳『赤い恋』東京生活者、1955年)と『秧歌』(並河亮訳『農民音楽隊』時事通信社、1956年)が紹介されているほか代表作の翻訳もなかったが、近年、日中でも張愛玲研究は活況を呈している。また、『大陸新報』(1944年6月20日)には、上海東亜同文書院の英文学者若江得行のエッセー「愛愛玲記」が掲載された。邦字紙ではあるが、戦時上海の言語空間を如実に浮かび上がらせた紙面となっていることが文献調査から明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、コロナ感染拡大防止のため上海図書館への実地調査が難しい状況が続いている。現在、日本国内での文献研究および上海師範大学天華学院の研究者とメールでの資料のやりとりを実施しながら研究を進めている。中国語文献の翻訳や調査を意欲的に実施している。戦時上海における『女声』をめぐる言語空間をジェンダー・システムの可変性の文献調査を中心とした研究は、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、海外渡航の制限があり、上海図書館、北京国家図書館、南京図書館への実地調査が困難であることから、国内で入手した資料・文献を中心に、田村俊子主宰の中国語雑誌『女声』の日中文学・文化の戦時上海における言語空間における役割について研究を進めている。そのなかで、日本人である田村俊子の中国語雑誌『女声』をパートナーとして支えた関露について調査し、ジェンダー視点から関露の言語行為について研究論文を作成する。 今後、中国への渡航が厳しい状況が続いた場合は、研究期間延長の申請も含めて研究を実地調査から関露の中国語文献翻訳を中心とした内容で推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大のため、海外渡航が制限され、中国(上海図書館、北京図書館、南京図書館)への出張旅費が使用できなかったため。
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