研究課題/領域番号 |
20K12479
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
荻原 桂子 岡山理科大学, 教育学部, 教授 (80299403)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 戦時上海 / 田村俊子 / 関露 / 『女声』 / 『大陸新報』 / ジェンダー / インターセクショナリティ / 中国という〈他者〉 |
研究実績の概要 |
上海での邦字紙『大陸新報』文芸欄に掲載された張愛玲や日本語翻訳を担った室伏クララの言語行為および田村俊子主宰の中国語雑誌『女声』に寄せられたさまざまな日本人作家や中国語翻訳を担った陳緑尼の言語行為は戦時上海という特殊な場所と時代背景に彩られ多彩な女性表象を生み出した。 1940年前後の戦時上海で、俊子と中国人関露はともに女性表象をめぐって中文による闘いを挑んでいたことを解明した。ジェンダー表象を中国語で発信しようとした俊子の目論見は成功した。日中における女性表象を地域・メディア・制度を通してジェンダー表象から究明し、ジェンダーおよびインターセクショナリティの概念から、戦時上海における『女声』をめぐる言語行為の実体を究明した。 戦時上海と切り結んだ日中の文学者の言説を読み解くことで、日中戦争のなか俊子が実現しようとした「乃婦女呼聲」「爲婦女而聲」「由婦女發聲」による社会性・思想性の真価を明らかにし、中国という〈他者〉に対峙した俊子や関露の言語行為について論究した。 人民共和国体制下の中国大陸では、張愛玲は1952年以来禁書扱いを受けてきたが、1985年に中国作家協会上海支部機関誌『収穫』が「戦場の恋」を掲載、これと前後してかつて淪陥期上海で中共地下党員として文芸誌『万象』の編集長を勤めた柯霊が当時を回想するエッセー「遙か張愛玲に寄せて」を発表、以来『伝奇』『流言』が復刻され、張愛玲リバイバルの年1985年というのが、中国文明ひいては中共独裁制にラディカルな疑問を突きつけた鄭義、莫言らの中国文学勃興の年と一致している点も興味深い。戦時上海で中国という〈他者〉に中国語雑誌『女声』を突きつけた田村俊子のジェンダー活動の言語行為としてとらえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ感染症拡大防止のため実地調査が難しく、上海図書館・南京図書館・北京国家図書館での資料文献の収集に支障をきたしたが、国内を中心とした調査を地道に進めた結果、有効な資料を入手することができ、研究に取り組むことができた。
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今後の研究の推進方策 |
国内外で収集した資料文献をもとに、「田村俊子の中国語雑誌『女声』をめぐる言語空間」-中国という〈他者〉」をまとめ、研究成果として学会発表を中心に公開する予定である。戦時上海における言語空間を日中の作家の言語行為から考察し、日中戦争のなかで日本人作家が中国という〈他者〉にいかに対峙したかを『女声』『大陸新報』記事から明らかにする。内容としては「田村俊子と関露」「草野心平と陶晶孫」「室伏クララと張愛玲」を中心に、「武田泰淳と堀田善衞と阿部知二」についての論考を加える。 上海における邦字紙『大陸新報』文芸欄に掲載された張愛玲の作品や日本語翻訳を担った室伏クララの言語行為、俊子主宰の中国語雑誌『女声』文芸欄で中国語翻訳を担った陳緑尼の言語行為は共に上海という多言語、多文化、多民族の坩堝である特殊なトポスと時代背景に彩られて万華鏡のように変化したことをジェンダーの言語行為としてとらえる研究を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症拡大防止のため、国内外の調査が難航したため、国内の図書館や内外の研究者から資料を借用し、借用した中国語文献の翻訳等を主な研究内容としていたため。
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